「合同会社」という選択肢について
投稿日:2015年02月24日【 企業法務 】
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「合同会社」という会社形態があります。この「合同会社」は、商事関連法制の大改正(平成18年会社法施行)によって、従来からの「有限会社」に代わるものとして、新たに設けられた会社形態です。
小規模な会社を設立する場合に、有限会社同様のメリットを享受できることから、これまで多くの合同会社が設立されてきました。しかし、安易に設立されすぎた感も否めません。
そこで今回は、合同会社のメリットとデメリットを、他の形態の会社との比較を交えながら、整理してみることにしましょう。
1. 「有限会社」はどうなった?
従来からの「有限会社」は、会社法施行後もほぼそのままの形態で残ることになりました。従来と同様、商号は「〇×有限会社」の使用を継続することが出来ますし、役員の任期の定めをおく必要はなく、決算を公告する必要もありません。
これは、やや詳しく言うと、従来からの「有限会社」は、会社法施行により、会社法の規律を受ける株式会社となったのですが、特例的な扱いが認められている(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第2条ないし46条)ということなのです。そのため、従来とほとんど変わらない有限会社が存続することになりました。但し、有限会社を新たに設立することは出来ません。
2. 株式会社と合同会社の違い
(1)株式会社と持分会社
会社には大きく分けると、株式会社及び持分会社という2種類の会社が存在します。さらに、持分会社には、合名会社、合資会社及び合同会社という3種類の会社があります。よって、合同会社は持分会社の一形態ということになります。
株式会社と持分会社とを分ける基準はどこにあるのでしょうか?その基準は、一言でいうと、「所有と経営とが分離」しているか否かということです。
株式会社の場合には、法律上は、出資者(=株主)と経営者(=取締役)とは一致しません。すなわち、株主は、出資をするけれども日々の経営には口を出さない、というのが原則的な規律です。このことを「所有と経営とが分離」していると言います。このような会社を「物的会社」(出資者の個性は重視されず、出資=物が重視される会社という意味)と呼ぶこともあります。
これに対して、持分会社の場合には、出資者(=社員)が原則として経営者(=業務執行社員)となります(会社法第590条1項)。すなわち、「所有と経営とが分離」していないのです。このような会社のことを「人的会社」(出資者の個性が重視される会社という意味)と呼ぶこともあります。ちなみに、ここで「社員」というのは会社法上の出資者のことであって、「従業員」のことではありません。
持分会社の一形態である合同会社では、「所有と経営とが分離」していないということになります。
(2)株式会社:制度上の想定と現実との差
もともと株式会社制度というものは、大規模に事業をすることの危険を分散させる目的から発展してきたものです。
航海技術の発達していなかった時代に、ヨーロッパとアジアとを結ぶ交易は、儲けは大きいけれども、非常に危険な事業でした。交易船一隻が難破してしまうと全財産を失ってしまうというのならば、どんなお金持ちもそんな事業に乗り出すことに躊躇してしまったことでしょう。そこで、公衆から広く出資を募って、利益を分け合うと同時に、もしもの時の危険も分け合おうという発想が生まれたのです。これが、株式会社の原初形態だと言われています。
株式会社制度が登場したおかげで、大規模な事業が可能となり、生産性の高い経済が実現されるようになったということもできます。
現在でも、株式会社制度は、利益と危険の分散という発想に基づいています。したがって、会社法で想定される(「法文の行間に読み取れる」という意味です)株式会社は、以下のような特徴を持っていると言えます。
- 大規模である。
- 出資者が不特定多数で、経営に関心がない。
- 事業の経営を担当するのは経営のプロである。
これを見てすぐに気づくでしょうが、この特徴に当てはまる株式会社というのは、上場企業等の一部の会社に過ぎません。日本の大多数の株式会社は、中~小規模で、創業家が全額を出資し、創業家が会社経営をしているのです。つまり、日本のほとんどの株式会社は、出資者の個性が会社人格にとってとても重要な意味を持っている実質「人的会社」と言うことが出来ます。
制度上想定される株式会社とその現実の姿が大きく異なっているために、多くの起業家にとっては、株式会社という器が重厚長大にすぎるという不便が生じます。この問題に対して、会社法は、設立方法の選択肢(募集設立か発起設立か)を設けたり、機関設計の選択肢(取締役会を置くか否か等)を多様化したりして対応しています。合同会社という会社形態を設けたのも、同じ問題への対応手段の一つであると考えることが出来ます。
(3)合同会社であることのメリット
合同会社のメリットとしては、以下の点を挙げることが出来ます。もちろん、何をもってメリットと考えるかは多分に主観的な判断です。
- 設立費用が安い(定款認証が不要、設立登記の登録免許税が安い)
- 管理費用が安い(決算公告・役員任期・株主総会がない)
- 経営の自由度が高い(定款自治の範囲が広い)
- 間接有限責任(出資者が会社債権者に対して直接責任を負わない)
- 法人税の節税メリット(株式会社と同じ税務規律を利用)
要するに、合同会社は、株式会社に関する規律の多く(b, c)に服さないというメリットと、株式会社と一部同じ規律(d, e)服することによるメリットとの両方を享受できるということです。おまけに、設立費用まで節約(a)できます。
3. どのような場合に合同会社のメリットを活かせるのか
株式会社という会社形態にこだわらないが、会社成りする必要がある場合があります。例えば、特定事業の許認可の要件の一つとして法人であることが要求されている場合、取引先企業の内規で会社としか取引してはならない等と定められていた場合等、会社でさえあれば用が足りるのであれば、比較的手軽に設立できる合同会社を検討してもよいかと思います。
また、個人事業の規模が大きくなってしまって、法人化した方が、節税のメリットが大きいという場合にも、合同会社設立を検討してみると良いでしょう。
4. 合同会社で困ること
(1)融資
金融機関の融資を受けて事業を行う場合には、融資の条件として、株式会社という器と一定の資本金額が必要になることがあります。よって、融資を受けることを計画している場合には、事前に金融機関に確認を取る必要があります。
(2)増資
株式を発行できませんので、簡単には増資できません。よって、設立後近い時期に事業を拡大する計画がある場合には、合同会社を設立することは適切ではありません。
(3)見た目
かつて資本金額の規制(株式会社の資本金は1000万円以上等)等が残っていた時代には、株式会社というだけである程度以上の資産規模のある会社であるというステータスがありました(この点、本当は、それ程単純な話ではないのですが、ここでは述べません。)。現在、1円の資本金額でも株式会社を設立できるようになりましたので、株式会社であるということだけから窺い知ることのできる事実は何もありません。しかし、昔のイメージがまだ残っているのは確かです。
また、合同会社といえば、平成18年以降に設立された歴史の浅い会社であることは、名前だけからも知れてしまいます。社会的な認知度も、株式会社や有限会社ほどは高くはありません。
5. ある合同会社の事例
最後に、実際にあった合同会社に関する事例をひとつ紹介しておきたいと思います(プライバシー保護のため、事例は大幅に加工してあります。)。
手軽に安く設立でき、管理も楽で、株式会社と同様のメリットを享受できることから安易に設立され過ぎた合同会社に関して、再考のきっかけとしていただきたいと思います。
<事例>
平成25年6月、健康食品の製造販売を行う山田株式会社の山田社長は 、会社の一部門を独立させるため、従業員の富田林を社長とする店舗型ヘルスサービスを提供するための富田林合同会社を設立することを思い立ち、これを実行に移しました。 富田林合同会社は、実は、山田株式会社が 全額出資したのですが、よからぬ理由で、表向きは富田林が全額出資したように見せかけて、設立したのです。つまり、富田林が唯一の代表権を持った業務執行社員であり、他には社員はいません。 平成25年7月、富田林合同会社は、2000万 円の足裏マッサージ機を購入する際に、オ リコス・リース社との間で、ファイナンス・リース契約を結びました。 平成26年4月、山田社長は、オリコス社から、一本の電話を受けました。「富田林さんが、破産申し立てしたっていう通知が、裁判所から届いたんです。リース契約上、それだとまずいので、富田林合同会社の社長を交代する手続きを採ってもらえますか?」 |
さて、富田林合同会社の社長交代とは、いかなる方法で行うのでしょうか?(富田林合同会社の定款には、会社法607 条2項の定めは、置かれていないものとする。)
まず、破産手続開始決定は、合同会社の社員の法定退社事由(会社法第607条)に該当します。そこで、富田林は富田林合同会社から退社してしまいます。
すると、社員が一人もいなくなった富田林合同会社は、会社法第641条4号により解散してしまいます。解散した富田林合同会社は、利害関係人の申立てにより選任された清算人(会社法第647条2項)により、清算手続きを行う必要があります。清算手続きが結了すれば、富田林合同会社の法人格は消滅します。
よって、社長である富田林の首を単純にすげ替えただけで、富田林合同会社を存続させることは出来ません。社長個人が破産したために、財務体質に問題のない会社であろうが、連鎖的に法人格を失ってしまうという事態が生じてしまったのです。
もちろん、このような事態を防止するための手段を、予め設けることは出来るでしょう。例えば、定款に会社法第607条2項の定めを置いたり、複数の出資者(=社員)によって設立したり、複数の業務執行社員を定めておいたり、といった方法です。
しかし、このようなことが生じる原因の根本は、合同会社が持分会社(=「人的会社」)の一つとして制度化されており、社員の個性と会社の人格とが不可分に結びついていることによるのです。これは、「物的会社」である株式会社との根本的な相違点です。この根本的相違を看過して、会社の設立を検討する場面で、「合同会社」を、「株式会社」の安上がりな代替策として安易に考えてはいけないと思います。上の事例は、安易な合同会社設立の代償ともいうことが出来るでしょう。
神戸六甲わかば司法書士事務所では、会社設立・商業登記などの相談を受け付けています。
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