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遺産分割審判と不動産登記

投稿日:2015年02月18日【 不動産登記 | 相続

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 今回は、遺産分割審判にもとづく相続登記(相続による所有権移転登記)について考えてみましょう。同業者(司法書士)以外に、こんな長い文章を真面目に読んでくれる人がいるのでしょうか・・。

<事例>

イメージ:遺産分割調停の事例

 被相続人Aの唯一の相続財産である不動産(Aが居住してきたマンション。以下、「本件不動産」という。)に関して、相続人X、Y(他には相続人はいません)の間で、意見が割れて、遺産分割協議が出来ない状況となりました。

 Yは、生前Aから法定相続分をはるかに超える多額の贈与を受けていました。一方、Xは、生前贈与を受けることもなかったのですが、15年前にAが寝たきりになってからは、一流会社の正社員から比較的時間に制約のないアルバイトに転職し、Aと本件不動産に同居しながら献身的に介護してきました。Xは、何とか生活の本拠である本件不動産くらいは、自分が単独で相続する権利があるだろうと主張しましたが、Yは、本件不動産を処分して、売却金を法定相続分で分けることを主張して一歩も引きませんでした。

 そこで、Xは家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てました。調停でも話し合いはつかず、最終的には審判が下され、これが確定しました。審判の内容は、「Xは、単独で本件不動産を相続する。」というXの主張を全面的に認めるものでした。

 さて、本件のような場合に、不動産登記を専門とする司法書士として、いくつかの実務的な疑問点を整理しておく必要があります。その疑問点とは、

  • Xは、単独で相続による所有権移転登記を申請できるか?
  • できるとして、その根拠はどこにあるのか?
  • 登記申請の際に添付する審判書に、執行文をつける必要があるか?
  • 確定証明書をつける必要があるか?
  • 審判書が正本である必要はあるか(謄本でもよいか)?

というものです。実務家の間でも、説明が一貫していない部分ですので、くどいかも知れませんが法律的・理論的な根拠を確認しながら整理してみましょう。

1. 不動産登記法(以下、単に「法」という。)第63条1項について考えてみよう

(1)法第63条1項の要件

 法第63条1項は、「第60条、第65条・・の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続きをすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同しなければならない者の他方が単独で申請することが出来る。」と定めています。

 この規定は、共同申請を原則とするような登記において、確定判決で「○○は、××に対して、別紙記載不動産について、平成年月日売買を原因とする所有権移転登記をせよ。」というような給付判決を得れば、単独でも登記申請が出来るという例外を定めたものです。この条項の要件事実を箇条書きにすれば、

 ①原則が共同申請である登記申請(法第60条、第65条等)である。

 ②一方当事者の登記意思を擬制する確定給付判決がある。

 ということになります。法第63条1項の「確定判決」は、判決同様の効力をもつ債務名義(和解調書、調停調書、審判書)を含みます。

 本事例に、法第63条1項が適用されるか否かを考えてみましょう。

(2)共同申請すべき場合か?

 まず上記①について、本事例は相続による所有権移転登記ですから、その申請方法は相続人による単独申請(法第63条2項)です。よって、法第63条1項が適用になる余地はありません。

(3)給付判決と同様の裁判か?

 上記(2)のとおり、本事例には法第63条1項の適用の余地はないのですが、手続法を理解するうえで重要だと思われるので、蛇足ながら上記②の要件についても検討してみましょう。

 裁判には、特定の請求権の「給付」を目的とするもの、特定の法律関係の存在又は不存在の「確認」を目的とするもの、及び特定の法律関係の「形成」を目的とするものという三種類があります。

 「給付」とは、例えば、金銭の支払、物の引き渡し、一定の不作為や特定の意思表示をすることも含まれます。法第63条1項の定める「登記手続きをすべきことを命ずる確定判決」とは、給付判決のことです。給付判決には、強制執行によって給付請求権の実現を図ることのできる「執行力」が認められています。

 「確認」とは、既存の特定の法律関係を「既判力」によって確認することです。大抵の紛争は、法律関係を確認しただけでは解決しませんから、確認の裁判を利用する場面は限定されます。また、「既判力」によって確認することに意味があるのですから、既判力のない判決以外の裁判については、この性質ははじめから問題となりません。

 「形成」とは、一定の法律要件(形成要件あるいは形成権)に基づいて特定の法律関係が変動(発生、変更又は消滅)することを言います。例えば、形成権の一つである民法第541条の解除権は、(ⅰ)相当の期間を定めた催告、(ⅱ)履行なしに相当期間が経過したことによって発生し、(ⅲ)解除権者が相手方に意思表示することによって行使します(民法第540条1項)。通常はこのように、形成権を持っている者は、相手方に対する一方的意思表示によって法律関係を変動させてしまうことが出来るので、裁判を必要とはしません。よって、形成の裁判は、法律の定めのある場合に限って提起することが出来るのです。形成の裁判には、法律関係を変動させる効力「形成力」が認められています。

 ところで、本件のような遺産分割事件は、家事事件の一つです。家事事件(家族、親子、夫婦等の問題)については、一般の民事事件とは異なった取り扱いが必要となることから、家庭裁判所に後見的な視点を入れた裁判権が与えられています。では、「Xは、単独で本件不動産を相続する。」という本件のような家事審判の性質は、どのようなもの(給付、確認又は形成)でしょうか?

 本件審判は、形成の裁判です。なぜなら、本件審判によって遺産分割協議という法律行為の効力が発生するからです。本件審判は、既存の法律関係にもとづいて特定請求権の給付を命じるものでも、そのような法律関係の確認をするものでもありません。

 よって、本件審判は給付を命ずるものではないので、法第63条1項適用の場面ではないことになります。結局、①の要件も②の要件も欠いているということになります。

 ちなみに、形成要件が予め法定されている本来的「形成」の裁判に対して、本件のように裁判所が合目的な裁量によって一定の法律関係を形成する裁判のことを「形式的形成」の裁判といいます。後見的な性質を持った家庭裁判所の行う裁判には、多かれ少なかれこのような形式的形成の側面があるのです。

2. Xは単独で相続登記を申請できるか?

 相続による被相続人から相続人への不動産の所有権移転登記は、相続人が単独で申請することが出来ます(法第63条2項)。遺産分割が行われた場合には、当該不動産について権利取得した相続人のみが単独で、登記申請情報に登記原因証明情報の一部として遺産分割協議書を添付して、申請を行うことになります。

 本件における遺産分割審判は、遺産分割協議という法律行為の効力を形成するものですから、本件審判書は遺産分割協議書と同様の効力をもつ法律文書ということになります。よって、Xは単独で、審判書を添付して相続による所有権移転登記を申請することが出来るのです。

 ちなみに、通常、相続登記に遺産分割協議書を添付する場合には、権利を承継しない法定相続人が実印で押印したうえで印鑑証明書をつける実務的扱いになっていますが、これは遺産分割が協議参加者の真意に出たものであるということを担保する意味があるので、そのような担保をする必要のない審判書には印鑑証明書を付す必要はありません。また、遺産分割審判が行われる際には、裁判所に戸籍等を提出して相続関係を確定しているはずですので、相続登記の際に重ねて戸籍等を添付する必要はありません。

3. 執行文付与の要否

 執行文とは、債務名義が執行力を持つということを、債務名義正本の末尾に付記する方法で証明する文言のことです。強制執行するためには、原則として、債務名義の正本、債務者への債務名義謄本(又は正本)の送達、及び執行文の付与という3つの要件が必要です。

 なぜ執行文が必要かと言えば、債務名義が存在するだけでは、その債務名義に執行力があるか否かが明らかではないからです。例えば、判決が確定しているか否か、債務名義に定める請求権の執行条件が成就しているか否かといったことを調査する必要があるのです。執行文を付すのは、執行証書(金銭債権について執行認諾文言のある公正証書)以外の債務名義の場合には、事件記録の存する裁判所の書記官です。このような仕組みになっているのは、執行機関と債務名義作成機関とが分かれているからです。前者に、執行力の存否を判断させるのは適切ではないし、その能力もないのです。

 さて、本件の審判は、そもそも給付を命じるものではありませんので、執行文は不要です。

 では仮に、本件の家事審判に「Yは、Xに対して、金100万円を支払え。」という条項が定められていたら、どうでしょうか?この場合には、審判が債務名義になるので、執行文付与の要否を検討する必要があります。しかし結論から言えば、この場合でも執行文は不要です。債務名義の中にも、債権者保護を迅速にすべき必要がある等の趣旨から、執行文付与を必要としないものがあるのです(民事執行法第25条但、民事保全法第43条1項・第52条1項他)。給付を命ずる家事審判には、執行文を付す必要はありません(家事事件手続法第75条)。

 さらに進んで、本件が民事訴訟で、XがYに対して、売買契約に基づく登記義務の履行を求めるというような事案だったとしましょう。このとき、判決が「Yは、Xに対して、平成年月日売買を原因として本件不動産の所有権移転登記をせよ。」という給付請求を認めるものであった場合、執行文は必要でしょうか?結論から言えば、この場合も執行文は不要です。なぜなら、登記申請意思のような意思表示を求める訴えにおいては、意思表示を認める判決が確定した時点で、被告の意思表示が擬制される(故に、執行が完了してしまう)ので、それ以上執行するということが観念できないからです。

 承継執行文や条件成就執行文については、以上とは別に検討する必要がありますが、ここでは割愛します。

4. 確定証明書の要否

 不服申し立ての可能性ある裁判にもとづいて登記申請を行う場合には、確定証明書を付さなければなりません。本件審判について言えば、高等裁判所への即時抗告が可能であるので、審判書だけでは、登記官にはその内容が確定したものか否かを判断することが出来ません。よって、登記申請に際して確定証明書を添付する必要があります。

 仮に本件において、遺産分割調停が成立したとすれば、調停調書にもとづいて登記申請を行う場合には、確定していることが明らかなので、確定証明書(そんなものあるのでしょうか?)は不要です。

5. 審判書は正本を添付すべきか?

 審判書には、原本、正本及び謄本の別がありますが、不動産登記申請を行う場合に、いずれを添付すべきでしょうか?

 原本は裁判所に保管される代替性のない文書ですから、登記申請に添付することは出来ません。

 正本は、原本と同じ内容を持つものとして権限のある機関(本件の場合、裁判所書記官)によって、作成される謄本の一種です。謄本は、正本と同じ内容を持つものとして権限のある機関(本件の場合、裁判所書記官)によって作成される文書です。正本と謄本との違いは、奥書の証明に「これは正本である。」と書いてあるか、「これは謄本である。」と書いてあるかの違いしかなく、特に正本を用いることが法規上定められている場合を除いて、どちらも同じ証明書としての役割を果たします。

 正本を用いることが法規上要求されている代表的な場合は、強制執行(民事執行法第25条)する場合です。

 不動産登記申請に関連する規定では、不動産登記令第7条1項5号イ(1)が、「法第63条第1項に規定する確定判決による登記をするとき 執行力のある確定判決の判決書の正本(執行力のある確定判決と同一の効力を有するものの正本を含む。)」を要すると定めています。

 本件の場合は、上記1で見たように、法63条1項によって登記申請するわけではありません。本件において、相続による所有権移転登記申請に遺産分割審判書を付すのは、通常の登記原因証明情報としてですから、特に正本に限る旨の規定がない以上、謄本で構わないという結論になります(登記研究527号)。

 神戸六甲わかば司法書士事務所では、遺産分割による相続登記(不動産登記)などの相談を受け付けています。

遺産分割による相続登記(不動産登記)に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

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