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所有者不明土地問題のこれから

投稿日:2019年04月06日【 ひとりごと | 不動産登記 | 相続 | 遺言

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2017年12月の所有者不明土地問題研究会(半民半官の研究会。以下、「研究会」という。)の最終報告に続いて、2018年6月には「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(2019年6月1日施行予定)が制定されました。現在、同じ問題について、法制審議会(法務大臣の諮問機関)において2020年の国会提出を目指して相続法及び登記法の改正が議論されています。

 

また、所有者不明土地問題との共通点の多い空家問題については、これらに先立つ2014年11月、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(2015年2月26日施行済)が制定され、最近この運用の影響が良くも悪くも出はじめています。

 

今回は、同じテーマを扱った前回記事「『所有者不明土地問題』を読む」の続きです。

 

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1 所有者不明土地問題についての誤解

(1) 「所有者不明」とは?

所有者不明土地が大きな社会問題だと聞けば、多くの人々は、自分の家の近所に突如として誰のものか分からない土地が出現したという場面を想像するかもしれません。確かに、そのような例も皆無ではありません。しかし、ほとんどの所有者不明土地はそのような想像とはかけ離れたものです。

 

まず、ここで「所有者不明」とは、いかなる状態を指すものかについて確認してみましょう。

 

研究会は、この点を「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」と広く「定義」し、「所有者不明土地」が九州に匹敵するほどの面積(410 万ha)に広がっていると発表しました。

 

また、上記「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」第2条第1項は、「『所有者不明土地』とは、相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地をいう」と研究会よりはやや限定して定義しています。ただ、これも相当広い「定義」であることが分かります。

 

「所有者不明」と言われれば、一般の人は、「誰のものか分からない」という状態を指すと考えがちですが、所有者不明土地問題における「所有者不明」は、この普通の意味ではないのです。

 

というのも、日本の民有地は、たとえ所有名義人が死亡して数十年単位で登記簿がそのまま更新されずに放置されたとしても、相続人を確定すること自体ほとんどの事案において可能であるからです。つまり、ほとんどの土地について、所有者(又はその相続人)が分かるということです。

 

所有者不明土地問題における「所有者不明」とは、分かりやすく言えば、

 

・ 登記簿上の名義人の連絡先が不明になっている、

・ 死亡した名義人の相続関係を調査するのに手間がかかる、

・ 相続関係調査に手間をかけるほどの経済的価値が乏しい、

・ 相続人間で話し合いがつかない、

・ 登記簿に不備があるために本当に誰のものか分からない、等々

 

の全てを含んだ概念なのです。

 

 

(2) 土地に対する一般イメージ?

一般の人がイメージする「土地」は、まず自分の生活圏を中心としたものでしょう。都市人口が大半を占める現在の日本において、それは住宅用地や商工業用地等、一般の人が目にしやすい土地を指します。

 

しかし、国土全体を議論の対象とするのであれば、この土地に対する一般イメージはかなり偏ったものと言わざるを得ません。

 

試みに、国交省の「平成27年度土地所有・利用概況調査報告書」を見てみましょう。

 

日本の行政権の及ぶ国土面積(北方領土を除くということ。)は3700万ha余りです。

 

これを所有主体別に見れば、国公有地28.3%、民有地43.4%、その他28.2%です。「その他」とは、公的台帳に記載された面積が正確でなかったり、非課税地のために固定資産資料から漏れていたり等のために生じたギャップです。(「その他」は国家の情報管理・処理能力のお粗末さの一端を示すものですが、本稿ではこれ以上触れません。)そこで、国公有地と民有地という大きな括りに限れば、その比率は4対6となります。

 

一方、国公有地、民有地及びその他を全て合わせて、これを土地利用状況別に見れば、その割合は高い順に、森林原野67.2%、農用地12%、宅地5.1%です。ただし、この「宅地」とは、商工業用地等を含む広い概念です。また、「利用状況」とは、登記簿上の「地目」のことではなく、現実の利用状況を指します。

 

この利用状況についての数字は、多くの人にとって意外に感じられるかもしれません。しかし、衛星写真を見れば別に意外でも何でもないことに気づかされます。日本は、山林や農地が8割を占め、ほとんどの人々が狭い土地(5.1%の部分)に集まっている、そんな国なのです。

 

 

衛星

(緑の多い日本列島)

 

 

(3) 最近の現象か?

所有者不明土地問題が最近突如として出現したというのも大きな誤解です。

 

日本の土地私有制度は、明治初期の地租改正を契機として成立しました。簡単に言えば、150年位前、できたばかりの明治政府は、租税を土地の生産力をもとに金納化するとともに、土地の所有権を人々に引き渡したのです。土地登記制度も、これとほぼ同時期に誕生しました。

 

当時、日本はまだ農業社会で、人々の経済活動は土地とより密接に結びついていました。農地は作物を、山林は木材、燃料、そして山菜等の恵みをもたらしました。

 

時は流れ、現在、全就業人口6664万人のうち、農業就業人口は175.3万人(2.6%)に過ぎません(平成30年の総務省統計、農林水産省統計)。林業就業人口にいたってはたったの4.5万人(平成27年の林野庁統計)です。さらに、農林業従事者の高齢化も進みます。

 

このような状況で、国民の多くが国土の大部分を占める山林や農地の権利関係について無関心になるのは当然のことです。つまり、所有者不明土地問題の底流には、日本がこの150年間に経験した社会・産業構造の変化があるのです。

 

 

 

2 所有者不明土地問題解決の障害

(1) 解決の方向性

問題の解決策として相続登記の義務化等も検討されていますが、それは単に手続的な枝葉に過ぎないでしょう。本質的な解決策は、前回の記事でも挙げたとおり、以下の2つだと考えます。

 

ア 土地所有権放棄及び放棄地管理のための制度

イ 共有者の一人が単独所有権を取得する制度

 

 

(2) 解決への障害

ア 所有権放棄制度の障害

現行の民法によっても、理論上、土地の所有権を放棄することは可能であると解されています(通説)。そして、所有権放棄された土地は、国庫に帰属します(民法第239条第2項)。ところが、現実には、私人が土地の所有権を放棄したくとも、国家がそれを受け取るような制度はありません。

 

所有権放棄制度に類似する制度としては、相続税の「物納」(相続税法第41条)があります。もっとも、物納の対象となる土地には相応の資産価値がなければなりません。これに対し、所有権放棄の候補となるような土地には資産価値などないのが普通です。ところが、資産価値ゼロの土地にも、管理のための多種多様のコストは必ずかかるのです。

 

はたして、そのコストは誰が負担するのでしょう?土地の所有権放棄制度を創設するうえで、この点は大きな障害となるでしょう。

 

 

イ 「共有」の問題

同じ対象物に関して複数の権利者が存在するという状態には、「物権共有」(民法第249条等)と「遺産共有」(民法第898条)とがあります。

 

単に共有といえば、ふつうは物権共有のことを指します。夫婦が半分ずつ出資してマイホームを購入したような例を思い浮かべればよいでしょう。

 

一方、遺産共有とは、相続人が複数いるときに、遺産分割が終わっていないために相続財産を構成する個々の財産について最終的な帰属先が決まっていない暫定的な共有状態を指します。所有者不明で問題となる土地は、遺産共有状態のものも多く含まれるでしょう。

 

ここで、もし所有者不明とされる土地の共有者全員(又はそれと同等の者全員)が取得を希望しないのであれば、物権共有であれ遺産共有であれ、速やかに所有権放棄制度を利用できるようにすべきでしょう。

 

これに対して、もし所有者不明とされる土地の共有者の中に取得を希望する者がいるのであれば、物権共有であれ遺産共有であれ、速やかに共有状態を解消する(=取得希望者の単独所有にする)のが望ましいと言えます。というのも、共有というのは非常に不安定な権利状態(=紛争等を生じやすい状態)であるからです。

 

現行法において、物権共有の解消のためには持分放棄(民法第255条)や共有物分割請求(民法第256条)等の手続を利用することができます。また、遺産共有解消のためには、相続放棄(民法第938条)、相続分譲渡(民法第905条第1項)、遺産分割(民法第906条等)等の手続を利用することができます。ただ、これら手続を利用できるような事案は、むしろ「軽症」の部類に属するでしょう。軽症の事案を「所有者不明」に含めることすら矛盾しているといえます。

 

所有者不明が「重症」化した場合、数次の相続の結果、相続人が非常に多数となり、さらにその中に高い頻度で行方不明者や意思無能力者等が出現します。このような場合、現行法においては、共有解消の手続を始める前提として、行方不明者について失踪宣告や財産管理人選任等を、意思無能力者のために後見人選任等を経なければなりません。

 

もちろん、対象となる土地の資産価値が高いのであれば、複雑な手続をいくつも組み合わせて共有関係を解消する意味も動機付けもあるでしょう。しかし、そんな土地は、そもそも重症化しないものなのです。

 

さらに、明治大正期には、「権利能力なき社団」等の所有する土地を、安易に多数者の共有物として登記するということが頻繁に行われました。このような土地については、共有解消のための現行法の手続はほとんど役にたちません。

 

現行法の手続から漏れてしまう事案まで包摂する共有解消の制度として、目指すべき理想はどこにあるのでしょうか?

 

今回、私の考えは述べないでおきます。

 

 

 

3 老朽分譲マンション問題との共通点

同じ不動産でありながら、建物を所有者不明の独立の問題として論じない(空家問題は、土地・建物をセットで扱います。)理由は、建物にはやがて滅失してしまうという性質があるからです。建物がなくなってしまえば、その所有権も(問題も)消えてしまいます。

 

しかし、建物といっても分譲マンションには土地と共通する性質があります。実は、マンションの建て替えは、非常に稀な例外を除いて事実上不可能なのです。つまり、滅失しない(=取り壊したくても取り壊せない)という点で、分譲マンションには土地と共通する性質があるのです。

 

1960年代以降に建てられた分譲マンションは、現在又は近い将来、建て替え時期を迎えます。日本社会が人口減少局面を迎え、供給過多となった老朽分譲マンションは、近い将来、所有者不明土地と同質の問題を引き起こすことでしょう。そして、分譲マンションの権利関係の整理のためには、土地に関するよりももっと周到な施策を用意しなければならなくなるはずです。

 

今回は、問題の指摘だけにとどめておきます。

 

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