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どうなる地籍調査?

投稿日:2018年06月25日【 ひとりごと | 不動産登記

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地籍調査に関心を持っている人なんてほとんどいないかもしれません。なにせ、国(国土交通省)が、地籍調査の実施主体である市町村の職員向けに啓蒙のパンフレット(「地籍調査はなぜ必要か」)を作ったくらいです。一般の関心の低さは、言うまでもありません。

 

そこで、今回は、意外に身近で重要な地籍調査の問題について考えてみましょう。

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1 地籍の理想と現実

地籍とは、土地についての所在・地番、地目、境界、面積及び所有者に関する情報を指します(国土調査法第2条第5項)。これは、国民について戸籍(本籍、筆頭、名、出生、婚姻、死亡等の情報)があるのと似ています。

 

国民にとって戸籍情報がいろいろな恩恵(行政サービスや社会保障の享受等)をもたらすのと同じように、それぞれの土地(「筆」)についてしっかりとした地籍情報があることによって様々な効果が生まれます。次はその主なものです。

 

ア 境界トラブルの防止

イ 災害復旧の迅速化

ウ 公共事業の効率化

エ 課税の公平

 

まず、地籍によって土地同士の境界が明確であれば、隣近所で境界をめぐって争うようなことは減少するでしょう。そうやって、紛争の大きな原因が一つ減れば、土地取引が活性化されるという付随的な効果も期待できます。

 

次に、もし土砂崩れや津波によって原形をとどめないほど地形が変わってしまったとしても、もともとの土地の配列を正確に復元したり、これに基づく防災を意識した区画整理をしたりすることも容易になるでしょう。

 

また、公共事業のために土地を買収する必要がある場合でも、誰に対してどの範囲で買収・収用するのかが明確になれば、迅速に計画を進めることができるでしょう。

 

さらに、土地に関する税金(固定資産税、相続税等)の計算も容易になり、公平な課税を実現することができるでしょう。

 

ところが、現実には、多くの土地で、上記ア~エの一見当たり前と思われるようなことが困難な状態にあります。これは、大きく分けると、2種類の地籍の問題に起因しています。

 

その一つは、近年、国会やマスコミ等でも盛んに取り上げられるようになった「所有者不明土地」の問題です。これは、一言で言えば、「土地の所有関係がよく分からない」という問題です。これについて、本稿では述べません(参照「『所有者不明土地問題』を読む」)。

 

他の一つは、各土地(筆)についての客観的情報(所在・地番、地目、境界、面積)に関する問題です。本稿の地籍調査とは、毎筆の土地について主に客観的情報を収集する活動のことを指します。

 

不動産の登記所である法務局は、全国の全ての土地について、客観的情報及び権利情報を登記記録データとして管理し、その図面を備えています。ところが、実は、その情報の多くは現状を反映した正確なものではないのです。

 

土地の境界や面積のような基本情報すらまともに信用できないのだとしたら、上記ア~エも当たり前とは言えないわけです。

 

 

 

2 地籍調査小史

現代的な意味の地籍情報が国によって管理されるようになったのは、明治政府の「地租改正」(1873)を契機とします。地租改正は、毎筆の土地ごとに面積と収穫力に応じた地価を定め、所有者が金銭により地価に応じた納税義務を負うという制度の創設を意味します。私有地が課税対象となるため、国が課税の基本情報を把握する必要が生じたというわけです。

 

ところが、この基本情報の収集は、所有者の自己申告に基づいて行われました。検地のような強権的な方法によることができなかったのは、つまるところ当時の国には無理強いするための権力も能力もなかったからです。自己申告というのは、単純化して言えば、農民が田畑を自ら縄や棒を使って測量し、その結果を役所に届け出たということです。収集された情報は、土地台帳やその附属図面としてまとめられました。

 

調査方法がこれでは、正確な情報にはなり得ないことは明らかですが、ここでの情報が、戦後の移管(税務署から法務局へ)を経て、現在の土地に関する情報の基礎になっていることには注意すべきです。

 

1951(昭和26)年、「国土の開発及び保全並びにその利用の高度化に資するとともに、あわせて地籍の明確化を図るため、国土の実態を科学的且つ総合的に調査することを目的とする」国土調査法が制定されました(同法第1条)。現在の地籍調査は、同法にもとづいて開始されました。

 

地籍調査の主眼は、毎筆の境界を確定して、形状・面積を測量することです。具体的な調査手続は、調査対象地域の住民説明会から始まり、所有者立会での境界確認、測量、成果図面の閲覧、訂正申立、登記記録更正、地図の備置という順に進行します。

 

ちなみに、ここでいう「地図」とは、日常的な意味での地図(案内図、市街地図、道路地図等)ではなくて、地籍調査の成果としての図面(不動産登記法第14条第2項)のことを指します。地球の座標に結びつけられた正確な図面である地図には、復元可能性という特徴があります。

 

現在まで、全国の調査対象面積(国有林等を除いた国土)の約50%の地籍調査が完了しています。ただし、地域的な進捗はバラバラです。たとえば、沖縄県では地籍調査がほぼ100%完了しているのに対して、京都府では7%しか終わっていないといった状況です。地域的傾向を一般化すれば、都市圏の地籍調査が遅れている(東京21%、神奈川13%、大阪8%)といえます。

 

調査が終わっていない地域については、明治初期の土地台帳附属図面が、現在でも地籍の重要な証拠の一つ(「地図に準ずる図面」不動産登記法第14条第4項)として通用しています。このような図面は「公図」とも呼ばれますが、呼称から連想されるような正確性はありません。

 

 

 

3 地籍調査の行方?

開始後70年近く経過しても半分しか終わっていない地籍調査が、今後、完遂されることはあるのでしょうか?半分残された調査対象地域は、特に厄介な地域ばかりのように見えます。

 

地籍調査を進めるうえでの問題は、大きく分けて2種類でしょう。

 

一つ目は、調査技術、人材、予算といった調査インフラに関するものです。しかし、この問題は、今後、重要ではなくなっていくでしょう。例えば、近年の無人航空機(「ドローン」)を使った測量技術の進歩には目を見張るものがあります。このような技術を用いれば、重い機材を担いで山林や藪中を行軍するというような話も、すぐに遠い過去のものになってしまうかも知れません。人も費用も従来ほど必要ではなくなるでしょう。

 

もう一つは、所有権に関する問題です。

 

地籍調査において確認する境界は、公法上の境界である「筆界」と呼ばれるものです。筆界は、分かりやすく言えば、地図や公図に引かれた線に対応する境界のことです。これは、所有権の境界である「所有権界」とは、観念上区別されるものです。両者が一致することも多いでしょうが、必ずしもそうとは言えません。例えば、隣地の所有者同士が合意によって境界を移動したり、土地の一部が時効取得されたりした場合、筆界と所有権界とがずれてしまいます。

 

地籍調査が純粋に公法上の境界に関わるのならば、国が一方的に筆界を確認しても構わないという結論になるでしょう。ところが、話はそれ程単純ではありません。国も、もともとの筆界を把握していないのです。したがって、毎筆の土地について筆界を確認するためには周囲の土地の所有者からも立会いや同意を取り付ける必要があるのです。これは大変な作業です。まして、調査対象になった土地やその周囲の土地が「所有者不明」になっている場合には、尚更のことです。

 

結局、このままでは、地籍調査の未来も暗いと言わざるをえません。私個人の勝手な意見でしかありませんが、地籍調査に対する不服申立等の手続保障を用意したうえで、国がある程度一方的に筆界を確定してしまうような制度をつくる必要もあるのでしょう。

 

 

 

 

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