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バーチャルオフィスを本店として会社を設立すること

投稿日:2015年04月15日【 企業法務

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 会社の設立に関して、法は準則主義を採用しています。これは、官公庁の許可や免許などを必要とせずに、法律の定める手順に従いさえすれば、自由に会社を設立することが出来るという原則です。株式会社の場合には、会社法第2編第1章の要件(定款作成、出資、機関の設置、登記等)を満たしさえすれば、誰でも比較的簡単に会社を作ることが出来ます。言い換えれば、会社という法人が成立する段階では、会社の実在性や設立目的の合法性のような実質的な問題について、公の審査をされることがないのです。会社の設立における準則主義の採用は、経済活動の自由(憲法第22条)の手続的な表現であるともいえます。

 しかし、このように簡単に会社が設立できるとなると、弊害も生じるのではないでしょうか?そこで今回は、会社設立段階での問題の一例として、バーチャルオフィスについて考えてみましょう。

1. バーチャルオフィスを本店として会社を設立することはできるか?

イメージ:バーチャルオフィス

 バーチャルオフィスとは、「住所」及び「電話番号」をレンタルするサービスのことです。会社の本店とされる「住所」に行っても、実際に会社の従業員がいるわけではありません。会社の「電話番号」に電話をかけても、別の電話に転送されるか、電話応答サービスのために雇われた人が、あたかも会社の従業員を装って伝言を受けるだけです。

 では、バーチャルオフィスを本店として会社の設立登記ができるでしょうか?

 この質問に対する私の答えは、「そのような登記を申請してはいけない。」です。

 そもそも、会社の成立・存続に際して「本店所在地」を定めることが法定されている(会社法第27条3号)趣旨は、会社(「法人」という観念的存在)の営業の本拠を明らかにすることによって、取引の安全を確保することにあります。すなわち、会社と取引しようとする相手方等は、会社の本店所在地を調査することによって、その会社の実在や営業規模等について理解する端緒とすることが予定されているのです。この趣旨からすれば、会社の「本店所在地」とは、バーチャルオフィスのような名義上の「住所」ではなく、会社の営業活動の本拠のことを指すと解されます。

 バーチャルオフィスが「本店所在地」でないとすれば、これを本店として会社登記をすることは、虚偽申告による登記申請をしたということで、公正証書原本不実記載等罪(刑法第157条1項)の構成要件に該当します。立派な犯罪行為です。

 バーチャルオフィスでも登記が可能であるという言説が流布していますが、これらは重要な点について誤解をして(又は意図的に誤認をさそって)いるものです。

 会社登記は、申請書類さえ形式上調っていれば通ってしまうものです。たとえバーチャルオフィスを本店として会社の設立登記を申請しようとも、書類上問題がなければ、設立登記は完了してしまいます。しかし、これは登記官が形式的審査権しか持っていないことから生じる事態に過ぎません。もともと、登記官には、会社の営業活動の本拠を調査したり、営業実態の有無を審査したりする権限は与えられていないのです。故に、バーチャルオフィスを本店として会社設立登記が通ってしまったからと言って、その登記事項の真実性や適法性について、法務局のお墨付きが与えられたということにはならないのです。

 当たり前のことですが、登記が出来るかという問題以前に、その内容が適法なものかという問題を考えなければならないのです。

2. 専門家としての義務とは?

(1)設立段階で生じる諸問題

 上記1で述べたような問題の他にも、会社の設立手続きに関わる仕事をしていると、いろいろと怪しげな事案に遭遇することがあります。例えば、以下のような事案です。

  • 会社設立を偽装した出資金詐欺を疑わせる事案
  • 犯罪行為の隠れ蓑とするための設立を疑わせる事案
  • 設立会社取締役に経営権限が全くない事案
  • 財産隠しや執行逃れを疑わせる事案
(2)司法書士による本人確認等の義務

 平成19年に施行された「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(以下、「犯罪収益移転防止法」という。)は、マネーロンダリング等の防止を目的として、一定の事業者(以下、「特定事業者」という。)に対して、顧客の本人確認、取引記録の保存、疑わしい取引の届出等の義務を負わせています。このような義務を負う特定事業者には、金融機関をはじめとして、司法書士等の「士業者」も含まれています。

 犯罪収益移転防止法は、組織犯罪に利用される危険のある取引を「特定取引」として類型化し、各特定事業者に特定取引に関与する際の本人確認等の義務を課しています。会社設立手続は、司法書士が本人確認等の義務を負うべき取引として定められた特定取引の一つです。また、特定取引に該当しない場合でも、司法書士は、業務を遂行するうえで関係者の本人確認や取引記録の保存等が義務付けられています(司法書士法23条等)。さらに、業務遂行について重要な行為を行うのは常に司法書士本人であって、他人にこれをさせてはなりません(司法書士法施行規則第24条)。このような義務があることは、犯罪の発生を防止するだけでなく、専門家としての社会的信頼を維持することによって、取引の安全を守るという機能をはたします。

 たまたま私が司法書士であるから、司法書士業務に関連した内容についてお話しましたが、同じような義務は、金融関係者、各種士業者等の身近な専門家が、根拠と方法は違っても、皆負っているものです。

(3)「専門家」の倫理?

 バーチャルオフィスの問題に限った話ではありませんが、犯罪の疑いのある事案を見て見ぬふりをしながら手続きを請け負ってしまう「専門家」が世の中には溢れています。ひどい「専門家」になると、一度も依頼者との面接をしないまま、無資格のアルバイトに作らせた手続き書類だけを通信販売しているような始末です。

 「専門家」が犯罪の温床を提供しているなど、言語道断。恥を知るべきです。

 神戸六甲わかば司法書士事務所では、商業・法人登記、会社設立などの相談を受け付けています。

商業・法人登記、会社設立に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

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