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遺言の手間と費用について

投稿日:2015年09月30日【 遺言

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 思い立った時に、手軽に作成することができる自筆証書遺言(民法第968条)が人気のようです。

 たしかに、自筆証書で遺言を作成すれば、公証役場に出向く必要もないし、そのための費用を支払う必要もありません。しかし、それだけの理由で、自筆証書の方式が手軽だと考えるのならば、そこには誤解があるように思えます。

 そこで、今回は、自筆証書遺言の作成から執行にいたるまでの、手間と費用について、公正証書遺言(民法第969条)を比較の対象としながら、検討してみることにしましょう。

1. 自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

(1)形式上の違い
イメージ:自筆証書遺言と公正証書遺言

 自筆証書遺言とは、遺言者本人が、全文・日付を自書し、署名捺印した遺言です(民法第968条)。作成した遺言書には封印するのが一般的ですが、封印は法律上の要件ではありません(民法第1004条3項参照)。

 これに対し、公正証書遺言とは、公証人が、証人2人以上の立会いのもとに、遺言者から口授された遺言内容を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、署名捺印させるとともに、自ら署名捺印した方式の遺言です(民法第969条)。

(2)実体法上の効力に違いがあるか?

 自筆証書の方式によるか、公正証書の方式によるかという形式上の違いから、遺言の実体法上の効力に差異が生ずることはありません。つまり、公正証書の方式で作成したからといって、そのこと自体によって、遺言に特別な効力が与えられるわけではないということです。

 例えば、遺言作成時点で遺言者に意思能力が欠けていたり、遺言内容が公序(民法第90条)や一定の法規定(民法第975条等)等に反していたりすれば、公正証書であろうが、自筆証書であろうが、遺言は無効です。逆に、遺言が有効である限り、その形式に関わらず、遺言に定めた財産処分(遺贈等)や身分行為(認知等)の内容を実現することが可能です。

2. 作成段階のコスト

(1)自筆証書遺言の場合

 自筆証書遺言を作成するのは、遺言者自身です。遺言者自身が文章を考えて、それを文書化するだけであれば、遺言書作成のための費用は、紙代くらいしか掛かりません。

 もちろん、弁護士や司法書士等の法律専門家に依頼して、遺言書を起案させることもできるでしょう。その場合には、契約による報酬を支払う必要があります。

(2)公正証書遺言の場合

 公正証書遺言は、遺言者の嘱託(=依頼)に基づいて、公証人が作成します。

 もちろん、遺言者自身が、公証人に直接依頼して、遺言書を作成してもらうことも可能です。この場合には、遺言者が、予約を入れたうえで、必要書類(印鑑証明、戸籍、住民票、財産内容を証する書類等)を公証役場に持参して、遺言に盛り込んで欲しい内容を公証人に伝えます。

 しかし、専門家である公証人にとっても、遺言者の相続関係や財産状況を把握し、遺言者の意思を正確に文章にまとめることは、困難を伴うことがあります。よって、複雑な事情がある場合等には、遺言者が、公証人と何度も打合せを行う必要が生じるかも知れません。もし、そのような手間を省きたいのであれば、法律専門家に依頼して、遺言の起案や公証スケジュールの打合せ等を、遺言者に代わって行わせることも出来るでしょう。

 公正証書遺言を作成するためには、公証人に対する手数料を支払う必要があります。公証人手数料は、政令(=公証人手数料令)によって規定されており、全国一律です。例えば、8,000万円相当の財産を一人に対して遺贈する旨の遺言書を作成した場合、公証人手数料は5万4千円です。

 これに加えて、法律専門家に起案等を依頼した場合には、契約による報酬を支払う必要があります。

(3)その他の費用

 自筆証書遺言にせよ、公正証書遺言にせよ、遺言の効力が発生する時(民法第985条)には、遺言者自身はこの世にいません。したがって、遺言者以外の誰かが遺言の内容を実行に移さなければなりませんが、このような役割を持つ者(=遺言執行者)を、予め遺言によって指定しておくことも可能です。

 法律専門家等を遺言執行者に指定する場合には、そのことに対する報酬(「遺言執行者就任予諾報酬」とでも呼ぶべきもの)を要することがあるかも知れません。というのも、遺言者から一方的に指定されただけでは、被指定者が執行者に就任しなければならない義務は生じないので、予め契約によって就任することを担保しておく必要があるのです。

 また、第三者(遺言執行者等)に遺言書を保管させる場合には、遺言書の保管報酬を要することがあるかも知れません。

 遺言執行者就任予諾報酬や遺言書保管報酬が必要かどうか、必要だとしてその額がいくらになるのかは契約によります。

3. 執行段階のコスト

(1)検認の必要性

 自筆証書遺言の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません(民法第1004条1項)。検認は、「審判」という裁判形式で行われる証拠保全手続きの一種です。遺言の内容を審査するものではありません。

 家庭裁判所に検認を申し立てる際には、所定の手数料と郵券を予納する必要があります。

 さらに、法律専門家に申立ての手続きを依頼する場合には、代理(弁護士)や代書(司法書士)の報酬を要します。報酬額は、契約によります。

 また、検認の審判を申し立てる際には、法定相続人全員を確定する必要があります。これは、遺産を承継しない相続人に対しても、検認に立会う権利を保障するためです(民法第1004条3項)。相続関係が複雑な場合等には、相続人確定に要する費用もばかにならないことがあります。

 これに対して、公正証書遺言に、検認手続は必要ありません。

(2)遺言執行者選任審判等

 自筆証書遺言の場合には、遺言執行者指定に関する記載がないことが往々にしてあります。

 遺言執行者の指定は遺言の要件ではないので、その記載がないとしても、遺言は有効に成立します。このことは、公正証書遺言にも当てはまるのですが、公正証書遺言において、遺言執行者を指定しない(又は指定し忘れる)ということは滅多にありません。

 理屈上は、遺言執行者がいない場合でも、一部の行為(民法第893条等)を除いて、法定相続人全員が共同して遺言を執行することが可能です。もちろん、相続人に不利な内容の遺言が行われた場合に、相続人がおとなしく遺言の執行に協力するとは限りませんが、これは事実上生じる問題です。

 遺言執行者がいない場合には、利害関係人の申立てにより、家庭裁判所の審判で、遺言執行者を選任することが出来ます(民法第1010条)。

 遺言執行者選任審判を申し立てる際には、審判手数料及び必要な数額の郵券を、家庭裁判所に予納する必要があります。

 さらに、この手続きを、法律専門家に依頼する場合には、契約による報酬を支払う必要があります。

(3)遺言執行報酬

 遺言執行者が遺言事務を執行した場合、その報酬を支払わなければなりません。このことは、遺言が公正証書によるものであれ、自筆証書によるものであれ、違いがありません。ただし、受遺者自身が遺言執行者となる場合等には、報酬を要しないことが多いでしょう。

 報酬額は、予め遺言中に執行者を指定しておくような場合には、遺言内容の一部として定めておいたり(民法第1018条1項但)、受遺(予定)者との契約で定めておいたりすることが出来ます。また、そのような定めがない場合でも、遺言執行者が、家庭裁判所に対して、報酬付与の審判を申し立てて、相続財産の中からこれを受け取ることが出来ます(民法第1018条1項、同法第1021条)。

 審判によって遺言執行者の報酬が定められる場合には、家庭裁判所が、相続財産の多寡やその他の事情を総合的に考量して、具体的な額を決定します。これに対して、報酬が、遺言内容の一部として定められたり、受遺(予定)者との契約で定められたりする場合には、その基準はありません。

(4)金融資産等に関する遺言執行

 遺言の実体法上の効力は、公正証書によるものであれ、自筆証書によるものであれ、差がないと前記しました。しかし、この理屈は、銀行等の金融機関に対して、すんなり通用するとは限りません。

 例えば、受遺者が、銀行に対して、検認済みの自筆証書遺言にもとづいて、遺贈者名義の預金を解約するように請求した場合、銀行はどのような対応をするでしょうか?

 実は、銀行は、自筆証書遺言によっては、預金解約手続をすんなりとは行ってくれません。おそらく大抵の場合に、銀行の窓口担当者は、受遺者に対し、あらためて相続人全員で解約手続きに来るか、相続人全員の署名・捺印のある承諾書に印鑑証明書を付して解約手続きをするようにと告げるでしょう。

 もちろん、自筆証書遺言だからというだけの理由で、銀行が正当な受遺者からの解約の要求を拒絶する法的な根拠はありません。しかし、預金の名義人たる遺言者本人が死亡しており、その意思確認が取れない以上、銀行は、「正当な受遺者」であるかどうか知れない者からの請求に、易々とは応じないのです。このような銀行の対応は、銀行の順守すべき注意義務に照らして当然のことと言えます。

 ところで、ここで受遺者が、自筆証書遺言及び検認調書を提示していますが、これらの書類を確認することをもって、銀行は、十分に注意義務を果たしたことにはならないでしょうか?これらの書類から、銀行が、預金に関する権利関係を確認できるのであれば、受遺者からの預金解約請求を拒絶することは不当だということになりそうです。

 しかし、これら書類から銀行が確認できるのは、わずかに預金の名義人が死亡したという事実のみです。検認審判が行われたということは、家庭裁判所が、少なくとも遺言者死亡の事実を除籍謄本等によって確認したということを意味するからです。

 他方、自筆証書遺言の記載から確認できる事実は、何もありません。そもそも遺言書の検認とは、遺言書の内容の真偽や、成立の真否について、家庭裁判所が「お墨付き」を与えるような類の手続ではないのです。つまり、自筆証書遺言を見ても、それが誰によって作成されたものなのか、その内容が遺言者の意思に基づくものなのか等を、確認することにはならないのです。

 受遺者が、窓口で断られても諦めずに、支店や本部の責任者に対して食い下がっていけば、預金の解約に応じてもらえることもあるかも知れません。しかし、運悪く解約に応じてもらえなかった場合には、銀行相手に、預金の引き渡しを求める訴訟を起こすことになるでしょう。

 こうなれば、裁判所に対して所定の訴訟手数料や郵券を予納するのはもちろんですが、訴訟に関する手続きを弁護士に依頼する場合には、契約による報酬を支払う必要もあります。

 他方、受遺者が、公正証書遺言にもとづいて、遺言者名義の預金解約を請求した場合、銀行は、通常、すんなりと解約手続きに応じます。これは、遺言書作成の際に、公証人が遺言者の本人確認や意思確認を行っているため、遺言の成立及びその内容の真否について信憑性が高いと考えられているからです。

 実体法上の効力が同じといっても、実務上は、自筆証書遺言と公正証書遺言の間には大きな差があるのです。

(5)相続・遺贈による不動産の所有権移転登記手続き

 遺言書の記載から対象不動産及びその承継者が確定できるのであれば、公正証書遺言であろうと、自筆証書遺言であろうと、登記手続きに差はありません。

 登記手続きのためには、法定の登録免許税を納める必要があります。さらに、登記手続きを司法書士に依頼する場合には、契約による報酬を支払う必要があります。

4. 遺言信託商品とは

 信託銀行の提供する「遺言信託」とは、遺言書作成、遺言書保管及び遺言執行等の一連の事務手続きを組み込んだサービスのことです。「信託」と名前がついていますが、遺言信託は、法律上の信託ではありません。

 遺言信託を利用した場合、遺言書は、公正証書によって作成されます。

 遺言信託は、自分の死後の財産管理を「丸投げ」したいという人にとっては、便利なサービスでしょう。ただし、便利な反面、サービス利用のための費用は、非常に高額ですので、注意する必要があります。

5. 遺言の作成方式選択について

 遺言者が亡くなってから、司法書士である私のもとに自筆証書遺言が持ち込まれて、それについて各種手続き(検認審判や執行者選任審判の申立て、不動産の相続・遺贈登記、金融資産の解約手続き等)を依頼されることがあります。

 自筆証書遺言であっても、公正証書遺言であっても、実体法上の効力は同じなので、遺言が有効であるという前提のもと、その記載がきちんとしたものである限り、遺言内容を実現することは、可能と言えば可能です。しかし、自筆証書遺言の場合には、遺言内容を実現するまでの過程に手間を要することが多々あることは上に述べたとおりです。手間がかかるということは、当然、費用も余分にかかるということです。それでも、遺言者が既に亡くなってしまっているのであれば、手間をかけてでも遺言内容を実現することは必要なことです。

 これに対して、これから遺言書を作成しようとする(遺言者が生きている)のであれば、自筆証書か公正証書かという方式選択の問題は、遺言執行までの手間や費用の問題と併せて検討すべきものです。作成の手間と費用が安いからという単純な理由で自筆証書を選択すれば、結局は、手間も費用も余分にかかってしまうということだってあるからです。

 神戸六甲わかば司法書士事務所では、遺言書作成、相続手続きに関する様々なご相談を受け付けています。

遺言についてのご相談は、お気軽にお問い合わせください。

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