休眠会社等の整理事業について
投稿日:2016年04月14日【 企業法務 】
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平成26年、法務省は、「休眠会社等の整理事業」を同年以降毎年行うことを明らかにし、実際に平成26年から毎年、同整理事業が行われるようになりました。整理事業の対象になるのは、「休眠」状態にある株式会社、一般社団法人及び一般財団法人です。
今回は、休眠会社等の整理事業を通して、会社等の後始末について考えてみましょう。
1. 休眠会社等を整理する必要性
(1)休眠会社等とは
会社等(=各種会社や社団・財団法人等)が、外形上存在しているけれども、実体として存在しないという現象が生じることがあります。すなわち、経営・運営者が会社等として行っていた事業を廃止してしまった(=実体の消滅)が、事業廃止に必要な手続きを採ることもなく、放置しているような状態(=外形の残存)です。このようなときに、その放置されている会社等のことを「休眠会社等」と言います。残存している「外形」とは、具体的には登記簿(=登記記録)のことを指します。
(2)休眠会社等の弊害
外形上だけ会社等が存在していても、登記簿を一見しただけでは、当該会社等の事業が廃止されているという事実を知ることはできません。よって、休眠会社等をそのまま放置してしまえば、法人登記制度への信頼や取引の安全を揺るがすことにもなってしまいます。
また、休眠会社等の外形が悪用される事態も生じ得ます。悪用の目的は、悪徳商法、脱税、さらには詐欺や恐喝等の犯罪行為まで様々考えられるところです。例えば、休眠会社を取引先として架空の経費を計上した法人税脱税の実例が知られています。また、許認可等の必要な業種に参入するため、その許認可を迂回する手口として休眠会社が悪用されることもあります。
2. 休眠会社等の整理事業とは
(1)会社等の正常な後始末とは
自然人は、死んでしまえば何らの特別な手続きを要せずして権利義務の主体ではなくなります。これに対して、会社等にはこのような意味での「死」が観念できません。
会社等が自然人のように「死んで」しまうことが出来ない理由は、当該会社等を中心として形成された権利義務関係を整理する必要があるからです。自然人が死ねば、その権利義務は原則として相続法に従って承継されます。しかし、会社等の目的とされる事業が廃止されたからといって、当該会社等が自然消滅するわけではないし、その権利義務が誰かに当然に承継されるわけでもありません。
会社等が権利義務の主体で無くなるためには、消滅を必要とする理由に応じた手続きを必要とします。例えば、会社等が消滅しようとしている理由が債務超過であれば、破産手続等を経なければなりません(破産法第16条等)。また、会社等が消滅しようとしている理由が、単に経営・運営者の事業継続意思がなくなってしまったということであっても、当該会社等を消滅させるためには、債権者保護手続きや残余財産の分配等を内容とする清算手続きを行わなければなりません(会社法第9章等)。
(2)休眠会社等の整理事業の内容
「休眠会社等の整理事業」とは、一定期間登記記録に異動のない会社等を、法務局が一方的に登記簿上解散させてしまうことを内容とした登記簿の整理事業のことです。
同整理事業の対象となる会社等は、12年以上登記記録に異動のない株式会社、並びに5年以上登記記録に異動のない一般社団法人及び一般財団法人です(会社法第472条、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第149条及び第203条)。これに対して、特例有限会社や各種持分会社等は、登記記録に異動のない状態が長期間に及んだとしても、同整理事業の対象とはなりません。
具体的な整理事業は、次のような過程を経る手続きです。
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- 法務大臣による休眠会社等整理事業実施の官報公告
- 管轄法務局から対象会社等に対する一定期間を定めた通知
- 一定期間の経過
- 記官の職権による解散登記
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法務局から通知(上記 2.)を受けた会社等は、休眠していないのであれば、一定期間(2カ月程度)内に「事業を廃止していない旨の届出」をすることも出来ます。しかし、このような届出のないまま所定の期間が経過すれば、当該会社等について、登記官の職権で解散登記が行われてしまいます。このような解散の手続きは、「みなし解散」と呼ばれます(会社法第472条1項等)。
みなし解散が、株式会社、一般社団法人及び一般財団法人についてのみ規定されている理由は、これらの会社等については役員の任期が法定されている(会社法第第332条2項等)ため、事業継続中であれば任期の更新時期を目途に役員等変更登記の申請が必ず行われるはずだからです。逆に言えば、任期の更新時期を大幅に経過しても役員変更登記が申請されないということは、事業が継続されていない(=会社等が休眠している)ことを推認させるのです。
また、株式会社、一般社団法人及び一般財団法人は、みなし解散のような大量・一括的な処分の対象として向いているということも言えるでしょう。準則主義に基づいて簡単に設立できるこれら会社等については、原則として官庁の個別の監督を受けているわけではないからです。
ただし、誤解してはいけませんが、みなし解散(及び解散登記)が行われても、当該会社等の実体法上の権利義務関係に変更を生じるものではありません。よって、例えば、当該会社等の有する財産権が、みなし解散によって消滅してしまうわけではありません。また、当該会社等に対する債権者は、当該会社等を相手取って、貸金等の返還請求をすることも可能です。これらの権利義務関係を消滅させるためには、別途何らかの清算手続きを行う必要があるのです。
(3)整理事業が進められるようになった事情
休眠会社等の整理事業が行われるようになったのは、ひとつには前記 1(2)のような休眠会社を放置した場合に生ずる弊害を除くという必要性があるためです。
他方、これまでも法律の規定がありながら散発的にしか実施できなかった休眠会社等の整理事業が、毎年実施されるに至った背景には、行政側の事務的な都合もあります。すなわち、会社等法人の登記記録が全てデジタルデータとして集中管理されるようになったため、登記記録の照合や通知の発送といった作業を容易に行えるようになったのです。仮に、会社等の登記事項が今でも紙の簿冊に記録されているままだったとしたら、休眠会社等を探すだけでも気の遠くなるような事務量になっていたことでしょう。
3. 会社等の後始末について
従来、事業を廃止しようと思っても、そのための事務処理の手間や費用が障害になって、事業廃止のための正式な手続きが敬遠されることがしばしばありました。例えば、事業実態のなくなった会社が自然消滅に近い形で放置されたり、債務超過となった会社の経営者が夜逃げしたりするようなことは、頻繁に起こります。
休眠会社等の整理事業が本格化し、休眠会社等の解散登記が行われるということは、当該会社等が事業を継続していないということが公示され易くなったということです。ここには、法人登記制度の信頼性を回復し、将来に向かって取引の安全を確保するという大きな意義があるのです。
しかし、同整理事業は、図らずも会社等の後始末の方法として「休眠化」という選択肢を作ってしまったことにはならないでしょうか。事業を廃止したい経営・運営者は、正式な手続きを経ずとも、当該会社等を放置すれば良いと安易に考えてしまうかも知れません。
このような発想に対しては、私は、当たり前のことを指摘しておきたいと思います。すなわち、休眠会社等の「整理」事業とは、単に休眠会社等にかかる登記簿の整理に過ぎないということです。言うまでもないことですが、休眠会社等の解散登記が行われても、当該会社等の権利義務が「整理」されるわけではありません。事業の廃止ということが同時に権利義務の整理という意味を含むのであれば、やるべきことがあるはずでしょう。
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