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認可地縁団体の不動産所有について

投稿日:2016年04月11日【 不動産登記 | 相続

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法人ではないけれども、法人と同等の組織や資産等を持った団体というものが存在します。これらの団体は「権利能力なき社団」と呼ばれて、法人とは区別されています。

 

今回は、権利能力なき社団の一つとされてきた地縁団体について、これを法人化するための手段のひとつである「認可地縁団体」の制度と、認可地縁団体に認められた不動産登記の特例について整理してみましょう。

 

このようなテーマは、一般にあまり馴染みがないかも知れませんが、実は、意外にも、多くの人にとって身近な問題に関係しているのです。

 

 

 

1. 設例(以下、「本例」といいます。)

かつて「甲村」と呼ばれた地区では、代々、周辺の山林(以下、「甲土地」といいます。)を入会地として、甲村の住民が自由に山菜や薪を採ったり、村の行事を行ったりするために利用してきました。住民は、交代で甲土地の管理をし、その管理費用を分担してきました。

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甲村は、明治時代に近隣の村とともに乙町に合併されました。その後、乙町も丙市に合併され、現在では住居表示に「甲村」という名前すら残っていません。しかし、かつて甲村だった地域に居住する住民たちは、今でも「甲村自治会」の名のもとに、甲土地の利用と管理を続けています。甲村自治会は、任意加入の団体ですが、この地域に居住する住民の過半数は甲村自治会に加入しています。

 

最近になって、丙市は、市民の利便向上のため、甲土地を横切って市道を建設する計画を立てました。計画実現のためには、甲土地の所有者から土地の一部を買収する必要があります。

 

ところが、丙市が、甲土地の登記記録を閲覧してみると、明治中期、甲村住民ABCの共有とする所有権の保存登記が行われたのを最後に、登記記録の異動がありませんでした。

 

さらに、丙市がABCについて調査してみると、ABCとも既に亡くなってから60~80年経過しており、Aについては、数次に相続が生じた結果、現時点で戸籍上生存している相続人が50名いることが判明しました。BとCについても、同じように、それぞれ30名、40名の相続人が生じていることが判明しました。

 

 

 

2. 「権利能力なき社団」と法人について

(1)なぜ個人名義で登記する必要があったのか?

かつて、自治会や町内会等の「地縁団体」を法人化することは容易ではありませんでした。従って、不動産を地縁団体の名義で登記することも出来ませんでした。そこで、実質的には団体として不動産を所有しているような場合でも、便宜的に団体代表者の単独名義で登記したり、団体構成員の共有名義で登記したりするという方法が用いられていました。

 

本例の甲土地についても同様の理由で、実質的には甲村自治会が団体として所有する財産でありながらも、不動産登記記録上は甲村住民3名の個人名義で登記されたのだと考えられます。

 

 

(2)法人とは

法は、権利能力の主体として、「人=自然人」(民法第2章)とは別に、「法人」を規定しています(民法第3章)。自然人は、出生とともに、特に何らの行為を要することなく権利能力を獲得します。これに対して、法人は、法律の規定によらなければ成立しないし、その権利能力も定款・規約等所定の目的の範囲に制限されています(民法第33条、34条)。

 

このように、法律が法人の成立やその権利能力の範囲を限定している理由は、取引の安全を図るためです。すなわち、法人は登記制度等によってその基本事項が公示されているため、取引の相手方は、誰に対して法律行為を行うべきか、誰に対してどのような範囲において責任を問うことが出来るのかを、予め知ることが出来るのです。

 

 

(3)「権利能力なき社団」の権利能力?

地縁団体は、法律の規定によらなければ法人となることは出来ません。法人でなければ、権利能力の主体となることは出来ないのですから、地縁団体に不動産の所有権が帰属するということもあり得ないのが法律上の建前です。

 

しかし、団体の中にも、法人と同等の恒常的組織を備え、運営や財産管理について内部規律の確立されたものが存在します。このような団体には、権利能力を否定するよりも、むしろ権利能力を認める方が、取引の実情に即していると言える場面は、社会に数多く存在します。そこで、判例は、このような法人並みの組織を持った団体を「権利能力なき社団」という概念で区別して、法人に近い権利能力の行使を認めるような解釈をするようになりました(最判昭和39年10月15日)。また、権利能力なき社団でも、訴訟の当事者となることが出来ることは、法律上も明らかにされています(民事訴訟法第29条)。

 

したがって、地縁団体も、法人並みの組織を備えていれば、権利能力なき社団ということになります。判例上「権利能力なき社団」であるか否かが問題となった団体としては、この他にも、預託金制ゴルフクラブ、法人設立手続き途上の社団等があります。

 

 

(4)権利能力なき社団の限界

判例が、権利能力なき社団に対して、実質的に法人同様の権利能力を認める解釈をしたといっても、両者が全く同じ権利能力を行使できるわけではありません。法人化されていない以上、権利能力なき社団に対して、権利能力を正面から認めることが出来ないという限界があるのです。

 

この限界として最も問題とされることが多いのは、権利能力なき社団に不動産登記の名義人となることが認められないという制限です。

 

 

 

3. 認可地縁団体について

(1)地縁団体とは

地縁団体とは、「市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体」(地方自治法第260条の2第1項)のことです。地縁団体の身近な例は、町内会や自治会です。

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(2)認可地縁団体とは(要件)

平成3年地方自治法の改正により、団体名義で不動産を保有することを目的として、一定の要件を満たした地縁団体に対して、市町村長の認可のもと法人格が与えられるという制度が創設されました(地方自治法第260条の2)。この制度によって法人化した地縁団体のことを「認可地縁団体」と呼びます。認可地縁団体は、認可(による告示)によって成立する団体であって、別途法人登記をする必要はありません

 

認可を受けるためには、以下の要件が必要となります(地方自治法第260条の2第2項)。

 

ア.区域住民のための活動の実態(公益性)

イ.地縁を画する区域の明確性(区域明確性)

ウ.当該団体への区域住民の参加可能性及び参加実態(住民参加性)

 

この制度が想定しているのは、例えば、一定区域内の住民の相互連絡や互助活動等を現に行っている町内会が、集会所として用いている土地建物を団体名義で登記する必要があるような場合です。

 

これに対して、上記要件や不動産保有という目的を欠いているような場合、また、そもそも地縁団体とはいえない場合には、本制度による認可を受けることは出来ません。よって、マンションの自治会、地域スポーツクラブ、学校の同窓会等は、認可地縁団体となることは出来ません。

 

 

(3)法人化選択肢の追加

平成18年の法人制度改革により、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」等、法人に関する基本法規が制定され(平成20年施行)ました。この改革の目的は、法律規定に従った手続きを履践すれば、監督官庁の許認可なしに、誰でも簡単に法人を設立することが出来る(このことを、「準則主義」といいます。)ようすることでした。これに伴い、従来、法人一般について許認可主義を規定していた民法第3章の諸規定は、大幅に改正・削除されました。したがって、現在では、マンションの自治会であろうと、アニメ同好会であろうと、簡単に法人化することが出来ます。

 

地縁団体についても、法人化するためには、市町村長の認可を受ける方法(地方自治法第260条の2)に加えて、一般社団法人等を設立するという選択肢が出来たわけです。いずれの方法をとっても、法人化すれば、地縁団体名義で不動産を登記することが出来ます。では、法人化を検討している地縁団体は、どちらの方法を選択すべきでしょうか?

 

設立手続きの容易さや運営の自由度という点を見れば、地縁団体を一般社団法人として設立する方法が優れているでしょう。上記3(2)のとおり、認可による地縁団体の法人化のためには、ハードルは相当高いと言えます。また、認可後に規約変更等の必要が生じた場合にも、当該変更に関して市町村長の認可を取らなければいけません。

 

しかし、ハードルが高いことと引き換えに、認可により地縁団体を法人化することには、以下のような特典が用意されています。

 

(あ)税制上の優遇

(い)不動産登記の特例利用

 

上記(あ)税制上の優遇について、例えば法人税に関して認可地縁団体は公益法人とみなされ、収益事業からの所得のみが課税対象とされます。その他にも、不動産譲渡所得税についても優遇措置が定められています。

 

上記(い)の不動産登記の特例については、下記4で説明します。

 

 

 

4. 認可地縁団体にかかる不動産登記の特例について

(1)不動産登記法の原則

不動産登記法第60条は、不動産の権利に関する登記申請についての「共同申請の原則」を明らかにしています。すなわち、不動産の権利設定・変動を登記する際には、「登記権利者」と「登記義務者」とが共同して申請しなければなりません。

 

ここで言う「登記権利者」及び「登記義務者」というのは、一般に、法律行為の両当事者(例えば、「売主」及び「買主」)に一致することが多いのですが、必ずしもそうとは限りません。ここでは、多くの法律行為が両当事者を想定しているのに応じて、登記申請する際にも、原則として、両当事者が共同で行わなければならないという程度に理解しておけば十分です。(「登記権利者」及び「登記義務者」は不動産登記法上の独特な概念ですので、本稿では説明を省略します。)

 

また、建物が建築されたり、埋め立てによって土地が創設されたりした場合に、最初に行うべき所有権を公示するための「所有権保存」登記については、両当事者と言えるものがないので、権利者が単独で申請することが出来ます。ただし、ここで申請人になることが出来るのは、表題部に所有者として表示された者やその相続人等に制限されています(不動産登記法第74条第1項)。

 

 

(2)特例創設の背景

平成3年の地方自治法改正により認可地縁団体という法人設立制度が創設され、認可地縁団体名義による不動産登記が可能となりました。当時、権利能力なき社団の代表者や構成員名義でしか登記することが出来なかったために、不動産にかんする権利の公示や管理・処分について生じていた問題は、この改正によって解決するものと期待されました。ところが、現実には、問題はそう簡単に解決しませんでした。何故でしょうか?

 

認可地縁団体による不動産登記が可能となったといっても、登記申請のためには、上記4(1)のとおり、当事者(登記義務者、登記権利者)が共同申請するか、単独申請の場合でもその申請人資格に制限があります。地縁団体の保有する不動産は、代表者名義で登記されたり、団体構成員の共有名義で登記されたりしているのが普通です。よって、地縁団体が地町村長の認可後に、不動産を団体名義で登記するためには、登記記録上名義人として記載されている者を登記申請に関与させる必要があります。

 

本例の甲土地について言えば、登記記録に、地縁団体構成員たるABCの名義で所有権の登記がなされているのですから、ABCから認可地縁団体に対して、「〇年〇月〇日委任の終了」を原因とする所有権移転登記を行わなければなりません。所有権移転登記を行う際には、登記名義人であるABCと認可地縁団体とが共同で申請行為を行う必要があります。

 

ここで、「〇年〇月〇日委任の終了」を原因として所有権移転登記するという意味は、次のようなことです。

 

地縁団体が権利能力なき社団である限り、当該団体名義では不動産登記することはできないのですから、構成員の誰か(代表者又は複数の構成員)に便宜的にでも登記名義人になってもらわなければなりません。不動産の登記名義人としてABCが記録されているということは、地縁団体(の構成員全員)がABCに対し、登記名義人になってもらうという事務を委任していたということを意味します。そして、当該団体が認可地縁団体として不動産登記の名義人となることが出来るようになったと同時に、この委任関係は終了し、当該不動産の所有権が、ABCから認可地縁団体に対して移転したと考えられるのです。

 

したがって、ABCと認可地縁団体とが共同して所有権移転登記を申請すれば真の登記名義人を公示するという目的は達成されるはずです。

 

しかし、ABCがすでに死亡しており、相続が発生していたとしたらどうでしょうか?この場合には、相続人全員の協力を得て、ABCから認可地縁団体に対して所有権移転登記を申請することになるでしょう。(この所有権移転登記の前提として、ABCからその相続人への相続を原因とした所有権移転登記が必要かという問題が生じますが、本稿では説明を省略します。)

 

実は、ABCの相続人を関与させなければならないということが、認可地縁団体の不動産登記にとって、実務上一番の障害であることが明らかとなったのです。

 

通常であれば、人が死亡すれば、その人について相続が開始します。このとき、不動産が遺産である場合には、相続を原因として、被相続人から相続人への不動産の権利移転が生じます。この手続きを主導するのは相続人であるのが普通でしょう。

 

これに対して、地縁団体の管理する不動産については、相続のような権利承継手続き及びそれに伴う登記申請が行われることは稀です。これは、当該不動産が、実質的には、地縁団体の所有物であって、登記名義人個人の遺産ではないからです。また、地縁団体の管理する不動産については、構成員の日々の利用に支障とならない限り、登記名義については誰も関心を払わないものだからです。

 

しかし、そのようにして登記記録が放置されたまま100余年も経過すると、相続人の数は相当の規模に達します。こうなれば、登記申請という手続行為にすら、多数の相続人の一致した協力を得るのは至難の業です。相続人の協力を得られないなかで、現にある権利関係と登記記録とを一致させるための手続きを行おうとすれば、裁判等を利用するなど、相当の費用と時間を覚悟しなければなりません。

 

また、相続人が多数になると、相続人の中に所在不明者が出てくるのが普通です。所有権登記手続きに、所在不明者を関与させることは容易なことではありません。

 

 

(3)特例の内容

認可地縁団体の所有する不動産についての登記手続きの困難を解決するために、地方自治法の改正(平成27年施行)が行われ、下記の要件を全て満たした認可地縁団体に対して市町村長が証明書を発行することにより、単独で登記申請することを可能にする特例が新設されました(地方自治法第260条の38)。

 

①不動産を所有していること。

②不動産を10年以上所有の意思をもって平穏かつ公然と占有していること。

③不動産の表題部所有者又は所有権の登記名義人の全てが認可地縁団体の構成員又はかつて認可地縁団体の構成員であった者であること。

④不動産の登記関係者(表題部所有者、所有権登記名義人、これらの相続人)の全部又は一部の所在が知れないこと。

 

上記要件のそれぞれについての説明は省略します。ただし、上記④の所在不明者については、たとえ一部の者でも所在不明であればこの要件に該当することになります。

 

本特例の適用を受けようとする認可地縁団体は、市町村長に対して、認可地縁団体が不動産権利登記することについて異議者を募る旨の公告を申請します。

 

公告申請を受理した市町村長は、上記①~④の要件充足を書類上審査した後に、3カ月以上の期間を定めて公告を行います。この期間内に、異議を申し立てるものが出なかった場合には、市町村長は、認可地縁団体に対して、「公告をしたこと及び登記関係者が公告の期間内に異議を述べなかったことを証する情報」(以下、「証する情報」と言います。)を交付します。

 

認可地縁団体は、証する情報を添付することによって、単独で、団体名義への所有権保存登記や所有権移転登記を申請することができるようになるのです(地方自治法第260条の39)。

 

要するに、本特例は、不動産登記名義人の相続人が所在不明になるという実務上高い頻度で発生する問題に対して、登記手続きの例外を認めたのです。本来であれば、所在不明者について不在者財産管理(民法第1篇第2章第4節)等の手続きを経なければならないところ、それを省略してしまうのです。

 

 

 

5. 残された問題

(1)認可地縁団体の不動産登記について

認可地縁団体という法人制度と、認可地縁団体にかかる不動産登記の特例の創設によって、認可地縁団体の所有する不動産についての問題は、解決に向け大きく前進したということが出来ます。

 

確かに、登記名義人の相続人が多数になってしまった場合、不動産の権利登記手続きの障害となるのは、相続人の所在不明の問題だけではありません。例えば、相続人の意思能力の欠缺、相続人の不存在等も、高い頻度で遭遇する問題です。

 

相続人に意思能力が欠缺している場合には、本来ならば、後見制度(民法第4編第5章)等によって欠けた意思能力を補完するべきでしょう。また、相続人がいない場合には、本来であれば、相続財産管理(民法第5編第6章)を経て権利の帰属を確定させるべきでしょう。

 

しかし、本特例は、相続人の一部でも所在不明になれば、適用の対象となるのですから、他の理由(意思能力欠缺など)で相続人が登記手続きに関与できない事情が重なった場合であっても、利用できることになります。本特例による不動産登記を検討している認可地縁団体は、皮肉にも、対象不動産の登記関係者(=登記名義人の相続人)が所在不明になっていることを祈りさえするかも知れません。

 

 

(2)地縁団体とは認められない団体

もともとは地縁団体であったものが、時代とともに地縁団体でなくなることがあります。このような団体は、もちろん、認可地縁団体となることは出来ません。よって、不動産登記の特例を利用することも出来ません。

 

たとえば、かつては村の住民全員が祖先を祀るために墓地会を形成して、墓地及びその施設を管理し、祭事を取り仕切ってきたというような状況があったとします。時代が流れ、墓地の権利関係が固定化し、墓地会の構成員の多くが村の住民ではなくなってしまいます。そのようになれば、当該墓地会は、地縁団体ではありません。

 

しかし、このようにして地縁団体ではなくなった団体にも、本例と同じような問題は生じるのです。

 

 

(3)耕作放棄地、山林、空き家等の問題

本例に現れた問題点は、二つありました。一つは、地縁団体の法人化という問題です。もう一つの問題は、不動産登記への相続人の関与という問題です。後者は、実は、誰にでも身に覚えのある問題です。

 

たとえば、田舎の田畑について相続が生じても、直接そこを耕作する者がいなくなってしまえば、相続等の権利承継手続きが行われないまま、放置されてしまうことがあります。そのまま相続人の数が増えて、事実上、権利関係が宙に浮いてしまうことは珍しいことではありません。山林についても全く同じことが当てはまります。

 

また、日本の人口が減少するとともに拡大してきた空き家の問題も、物理的に放置された空き家の利用を議論する前に、利用の前提としての権利承継手続きが未了であることが往々にしてあります。

 

不動産について権利承継の手続きが放置されてしまう状況は、規模の違いこそあれ、身近なところでも生じうるのです。

 

 

 

 

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