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個人再生手続という債務整理方法について

投稿日:2015年06月17日【 債務整理(借金問題) | 金銭トラブル

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 人は、経済的窮境(継続的に債務の弁済ができない状態。「支払い不能」とも言います。)に陥っても、債務整理によって更生を図ることができます。夜逃げや心中は解決方法ではありません。

 今回は、債務整理方法の中でも、実際に利用するか否かは別として、特に利用希望の多い個人再生手続について整理してみます。

1. 個人再生手続の概要

(1)制度の位置付け

 個人再生手続は、一般民事再生手続の特則として、民事再生法第13章に規定されています。一般民事再生手続が重厚長大に過ぎることから、個人再生手続は、その利用要件を限定(小規模個人再生について民事再生法第221条、給与所得者等再生について同法第239条)したうえで、手続及びその効果を簡素化(「再生債権のみなし届出」について民事再生法第225条、失権効や執行力等規定の適用除外について同法第238条)しています。

 個人再生手続には、小規模個人再生と給与所得者等再生という2種類がありますが、後者は前者の特則です(民事再生法第239条1項)。したがって、制度間の包含関係は以下の通りです。利用できる人の範囲は、一般民事再生が最も広く、給与所得者等再生が最も狭くなっています。

 一般個人再生 ⊃ 小規模個人再生 ⊃ 給与所得者等再生

(2)どんな人が利用できるのか
イメージ:借金に困る

 民事再生手続利用の一般的前提として、債務者に支払不能のおそれが生じていることが必要です(民事再生法第21条1項)。そのうえで、特則である個人再生を利用できるのは、自然人に限られます。つまり、会社などの法人を含まないということです。

 自然人のうち、以下2つの条件をどちらも満たす場合に、小規模個人再生を利用することが出来ます。

  • 将来において定期的に収入を得る見込みがある。
  • 住宅ローン等一定の債務を除外した債務合計が5,000万円以下である。

 これによれば、定期的収入があれば良いので、サラリーマンだけでなく、個人事業者や年金生活者も、小規模個人再生を利用することが出来ます。

 また、住宅ローンの額が多くても、それ以外の債務額が5000万円以下であれば、小規模個人再生を利用することが出来ます。

 さらに給与所得者再生を利用するためには、上の2つに加えて、以下の条件も満たさなければなりません。

  • 定期的収入(給与等)の変動幅が小さい(概ね2割以下の変動幅)。

 よって、収入の上下動が激しい事業者などは、給与所得者等再生を利用するのが難しいかも知れません。

(3)個人再生手続によって債務はどうなるのか

 個人再生手続においては、一定のルールに従って債務を減額変更する一般的基準を決め、その減額した債務を3年間(5年まで延長可)にわたって分割返済していく計画(以下、「再生計画」という。)を立てます。

 この計画が裁判所によって認可(「決定」という裁判によります。)されれば、債務の内容が計画で定める一般的基準に従って変更されます(民事再生法第232条2項)。つまり、債務の○%を分割して(3カ月に1回)に払って行くことが出来さえすれば、その余りについては支払う義務がなくなるということです。

 再生計画の弁済額を決める一定のルールとは、以下のようなものです。

  • 清算価値保障の原則(小規模個人再生と給与所得者等再生に共通)
  • 最低弁済額要件(小規模個人再生と給与所得者等再生に共通)
  • 可処分所得要件(給与所得者等再生のみ)

 まず、清算価値保障の原則とは、債務者が再生計画に従って弁済する総額が、破産した場合の予想配当額を下回ってはいけないというルールです。単純化して言えば、再生債務者は、持てる財産全てを換価したと仮定した場合の価額以上を、債権者に対する弁済に充てなければならないということです。

 このため、再生債務者が不動産や生命保険等の高額の財産を所有しているような場合、換価価値が大きくなってしまうので、弁済額は膨らんでしまいます。実際に財産を換価する必要はありませんが、財産を持っているのであれば、簡単に借金を踏み倒すことはできないという、当たり前のことを定めた原則です。

 次に、最低弁済額要件とは、民事再生法第231条2項3号から4号までに定める額以上を弁済しなければならないというルールです。以下のように定めてあります。

100万円以下の債務 ⇒ 全額弁済
100万円超、500万円以下の債務 ⇒ 100万円弁済
500万円超、1500万円以下の債務 ⇒ 20%以上弁済
1500万円超、3000万円以下の債務 ⇒ 300万円弁済
3000万円超、5000万円以下の債務 ⇒ 10%以上弁済

 例えば、住宅ローン等一定の債務を除いた債務総額が1,000万円であった場合には、この要件に従えば、20%である200万円以上を弁済しなければならないということです。

 最後に、可処分所得要件とは、世帯にとっての余裕資金は弁済に充てなければならないというルールです。可処分所得要件は、給与所得者等再生のみ適用されます。その計算の詳細についてはここでは述べません。

(4)小規模個人再生と給与所得者等再生の違い

 給与所得者等再生の方が、小規模個人再生よりも、利用要件が厳しく(定期収入の変動幅が小さくなければならない。)、その割に、弁済額は多くなる可能性があります(再生計画で弁済額を定める基準として可処分所得要件が加わる。)。これでは損ばかりな気がしますが、給与所得者等再生を利用するメリットはどこにあるのでしょうか?

 それは、給与所得者等再生においては、再生計画案の決議(民事再生法第230条)が不要であるということにあります。

 小規模個人再生においては、再生計画案を債権者の決議に付して、これに対して、債権者の過半数(債権者の数が過半数であり、かつ債権額が過半数)が反対しないということが必要です。ややこしい言い回しですが、要するに、再生計画が裁判所によって認可される前提として、債権者の過半数が消極的にでも再生計画案に賛成していることが必要だという意味です。

 これに対して、給与所得者等再生においては、債権者は再生計画案について意見を述べることが出来る(民事再生法第240条)だけで、再生計画の生殺与奪の権を握っているわけではありません。よって、再生計画に反対しそうな債権者が過半数を超えると予想される場合には、小規模個人再生ではなくて、給与所得者等再生を選択すれば、個人再生手続をスムーズに推し進めることが出来るというわけです。

 しかし、実際には、給与所得者等再生の利用は、それ程多くはありません。個人再生事件のうち9割方は、小規模個人再生であると言われています。これは、制度創設時の予想に反して、再生計画に反対するような債権者が現実には多く出なかったためです。

2. なぜ個人再生手続を希望するのか?

(1)破産という制度

 経済的に窮境にある債務者(民事再生法第1条他)にとって、利用できる法的整理の手法としては、個人再生の他にも、破産が考えられます。

 破産とは、債務者の財産に対する包括的執行手続きであると考えることが出来ます。つまり、破産の主要な目的の一つは、債務者(以下、「破産者」という。)の財産を取り上げて(破産法第34条等)、これを換価し(同法第184条他)、債権者に平等に配当する(同法第193条他)ことにあるのです。

 他方で、破産は、自然人たる破産者にとっては、自らが負っている支払義務からの免責(破産法第253条他)を得ることを目的として行われる手続でもあります。換言すれば、合法的に借金を踏み倒す手続きだということです。特に、債務者自ら破産を申し立てる場合(「自己破産」)には、その時点ですでに財産が無いのが普通ですから、免責を受けることが破産の唯一の目的と言っても良いくらいです。

 これにたいして、個人再生手続きにおいては、債務者は、上記1(3)のような基準に従って減額された債務を、再生計画に従って弁済しなければなりません。つまり、債務者は、財産を換価・配当する必要こそありませんが、所定額の金銭を弁済のために捻出しなければなりません。破産する場合に比べて、債務者にとっての負担は確実に重くなります。

 しかし意外にも、窮境に陥った債務者は、個人再生手続を希望することが多いのです。これは何故でしょうか?

(2)個人再生手続を希望する理由
イメージ:免責不許可事由 ギャンブル

 経済的窮境に陥った債務者が、破産ではなくて、個人再生手続の利用を希望することが多い理由は、以下の3つが考えられます。

  • 破産法の免責不許可事由の存在
  • 破産開始決定の効果としての資格制限等を回避する必要性
  • 住宅資金特別条項の利用

[ A. 破産法の免責不許可事由の存在]

 前述のとおり、破産は、破産者自身にとっては、支払義務からの免責を得ることがほとんど唯一の目的です。しかし、破産開始決定を受けたからと言って、全ての破産者が免責を受けられるわけではありません。破産法第252条1項各号は、免責を不許可とする事由を掲げています。それら事由の中で、申立前に実務上問題となることが多いものを見てみましょう。

  • 財産隠匿等の破産財団の価値を不当に減少させる行為(1号)
    •  支払不能状態に陥ってから、財産隠しをしたり、親族等に財産を贈与・廉売したりするような場合です。このような悪質な行為をする破産者に対しては、容易に免責を与えないという趣旨です。さらに、このような行為は、詐欺破産罪(破産法第265条)にも当たることがあります。

  • 浪費又は射幸行為による著しい財産減少又は過大な債務負担(4号)
    •  贅沢品の購入、ギャンブルや投機行為によって破たんに瀕してしまった場合のことです。身勝手な理由で破たんした破産者に対して、容易に免責を与えないという趣旨です。

  • 偏波行為(3号)
    •  支払不能の状態にあるにもかかわらず、特定の債権者だけに弁済したり、担保提供したりするような行為です。破産法の原則たる債権者平等に反する行為をした者に対しては、その行為の態様によっては、免責を与えないという趣旨です。

  • 詐欺(5号)
    •  返済できないことを知っていながら、お金を借りたような場合です。経済的窮境にある債務者は、往々にして自転車操業に陥ってしまうものです。しかし、その程度や態様が悪質なものであれば、免責を受けることはできないという趣旨です。

  • 再度の破産等(10号)
    •  以前に破産免責を受けておきながら、短期間(7年以内)のうちに再度免責許可を申し立てる場合です。免責というのは、破産者の更生を期待して与えられる国家からの「恩恵」です。恩恵に対して報いる意思のない者は、免責を受ける資格がないという趣旨です。

 上記のような事情があって、破産を申し立てても免責が得られない可能性が高いような場合には、債務者が次善の策として個人再生手続きの利用を希望することが多々あります。

[ B. 破産開始決定の効果としての資格制限等を回避する必要性]

 破産開始決定を受けたことが欠格事由となるような一定の職務・職業が存在します。身近な職業を挙げると、司法書士等のいわゆる「士業者」全般、宅地建物取引主任者、生命保険募集人、警備員や後見人等も破産開始により当然に失職します。

 また、破産開始は委任契約の終了原因(民法第653条2号)であることから、株式会社の役員等は、破産開始決定を受けたことにより当然に失職します(会社法第330条)。持分会社の社員については、破産開始決定を受けることが法定退社事由として規定されています(会社法第607条5号)。

 さらに、債務者が任意後見契約によって将来任意後見人となることが予定されているような場合に、破産申立てを避けようとすることがあります。この場合、たしかに、将来の後見人就任時点で破産による資格制限から復権していれば、後見人の欠格事由にはあたらないと言えます。しかし、任意後見人就任の前提となる、家庭裁判所による任意後見監督人選任審判が却下される可能性が大きくなります。よって、結果的に、後見人予定者が破産すれば、任意後見人就任が難しくなるでしょう。自分の財産を管理できないような人が、後見人に就任して、他人の財産をちゃんと管理することなど期待できないのですから、当然のことです。

[ C. 住宅資金特別条項の利用]

 住宅資金貸付条項とは、住宅ローンにかかる債権のみを他の再生債権とは別枠に入れて、債務者が住宅を維持することができるようにするための制度です。

 通常ならば、債務者は、破産や再生等の手続が始まれば、抵当権のついた住宅(建物とその敷地)を手放さなければなりません。しかし、生活の本拠である住宅を失ってしまえば、債務者の更生が阻まれてしまうことも考えられます。そこで、債権者平等という原則を曲げて、住宅ローン債権のみ、ほぼ従前通り支払っていくことを再生計画に定めることが出来るようにしてあるのです(民事再生法第10章)。

 オーバーローンの状態(住宅ローンの残債務額が、住宅の換価価値を上回っている状態)であれば、住宅は負担でしかありませんから、手放した方が計算上得なはずです。しかし、マイホームや生活環境等への愛着から、住居だけは手放したくないと考える債務者は多いのです。

3. 負担を理解すること

 上記2のような理由から、多くの債務者が、債務整理方法として個人再生手続を希望します。確かに、一定の事情を抱えた債務者にとっては、個人再生手続は都合が良いようにも思われます。特に、住宅を維持したまま債務整理が出来るという謳い文句は、窮境に瀕した多重債務者にとっては魅力的に聞こえることでしょう。しかし、都合が良いことの代償として、債務者にとっての負担が非常に大きいことは見過ごされがちです。

 負担の一つ目は、手続的なものです。個人再生申立の準備からスタートして、再生計画の認可決定が下りるまで、1年以上かかることは稀ではありません。単に期間が長いという問題だけではなくて、その期間は、債務者自身の計画性、財務力や事務処理能力を裁判所に対して証明するための期間でもあるのです。期間が経過すれば、何もせずとも再生計画が認可されるわけではありません。さらに再生計画認可後には、実際に計画に従った弁済を、3年又は5年という長期に渡って実行していかなければなりません。

 負担の二つ目は、計画弁済に関するものです。いくら債務を減額されるとは言っても、定期的に一定額を払い続けていくことは、多くの債務者にとっては決して容易ではありません。さらに、住宅資金特別条項を定めた場合には、減額されない住宅ローンを支払って行かねばならないのです。

 再生計画の実施に甘い見通しを持ったまま安易に個人再生手続を選択すれば、申立ての準備段階で挫折してしまったり、再生計画の実施中に破産申し立てを余儀なくされたりすることになります。そうなれば、債務整理の目的である、債務者の経済的更生が遅れてしまうだけです。そのようなことにならないよう、債務整理の手続選択には、慎重すぎるほどの慎重さが必要なのです。

 手続きに関わる専門家も、依頼者である多重債務者の希望ばかりを鵜呑みにせずに、客観的な判断をすべきです。自戒の意味も込めて。

 神戸六甲わかば司法書士事務所では、債務整理(任意整理・個人再生・破産)など借金問題に関する様々なご相談を受け付けています。

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