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敷金等返還をめぐるトラブルについて

投稿日:2016年03月07日【 金銭トラブル

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 不動産の賃貸借契約に伴って、賃借人から賃貸人に対して、賃貸料とは別の金銭が交付されることが一般に行われます。「敷金等」と呼ばれるこの金銭は、地方によってその呼称や性質についての理解が異なったり、当事者都合で解釈されたりすることも多いため、トラブルが絶えません。

 そこで今回は、敷金等について、その性質を理解するとともに、返還を実現する方法について整理してみましょう。

 ※本稿において、建物の賃貸借の場合には、貸主を「家主」、借主を「借家人」と表記します。不動産一般の賃貸借の場合には、それぞれ「賃貸人」「賃借人」と表記します。

1. 敷金等とは

(1)敷金
イメージ:敷金等返還をめぐるトラブル

 建物の賃貸借契約の際に、借家人から家主に対して、「敷金」が交付されるのが一般的です。敷金を直接定義した規定はありません(民法第316条等参照)が、民法上、敷金と言えば、賃貸借終了時点で、借家人が家主に対して負っている未払賃料債務や損害賠償債務を担保するための金銭を指すと解されています。

 したがって、敷金は、賃貸借終了(=建物明渡し)時点で、滞納家賃や建物損壊による賠償債務があれば、それらを控除したうえで借家人に返還されます。もちろん、借家人が何らの債務も負っていないのであれば、全額返還されるのが原則です。

 このように、通常、敷金は、担保としての目的を終えれば、家主から借家人に返還されることを予定されているのです。

(2)礼金、敷引き、権利金、保証金

[ ア. 礼金]

 「礼金」は、通常、建物賃貸借契約において返還義務のない金銭を指します。もともと礼金は、住居不足の時代、主に関東地方で、家を貸してくれた家主に対する感謝を表したことを起源としたものです。

 現在、礼金に感謝の意味などありません。そもそも対等な契約関係にある当事者の一方が、他方に対して感謝を義務付けられるというのは奇妙な話です。むしろ、現在の礼金は、家主から仲介業者に払うべき紹介手数料を借家人に肩代わりさせるための方便であったり、月々の家賃を安く見せるための手法(家賃の一部前払い)であったりというのが実情に近いように思われます。

 普通の住居の賃貸借においては、家賃の2~3カ月分くらいまでの礼金が定められるのが一般的です。一方、店舗等の賃貸借においては、礼金が高額になることがあります。これには、場所的利益の対価、又は建物の損耗に対する賠償額の予定という意味があるものと考えられます。

 礼金は、慣習に照らして妥当な金額であれば、返還義務がないと解されています。これに対して、法外な礼金の定めは、消費者契約法第10条や民法90条等によって無効となる場合が多いでしょう。礼金の定めが無効となれば、受け取った金額は、もちろん返還しなければなりません。

[ イ. 敷引き]

 「敷引き」は、主に関西地方で、「礼金」に近い意味で用いられます。敷金のうち一定額を償却して、その返還義務を家主に対して免除するという意味から、このような表現が用いられます。賃貸借契約に敷引き条項が定められている場合には、敷金の返還義務の範囲について注意が必要です。

[ ウ. 権利金]

 「権利金」は、主に土地の賃貸借において、場所的利益の対価、賃料の一部前払い、又は賃借権の譲渡許可料として授受されます。住宅地なら地価の3~4割、商業地なら地価の7割以上、都心ならさらに高額に上ることがあります。

 権利金に返還義務が生ずるか否かは、その性質によります。

 権利金が賃料の一部前払いという性質のものであれば、実際に賃料に充当されなかった範囲については、賃貸人が返還しなければならないという結論になるでしょう。

 これに対して、権利金が場所的利益の対価という性質のものであれば、返還する義務はないとされています(最判昭和43年6月27日)。

 また、賃借権の譲渡許可料としての性質のものであれば、賃借人は差し入れた権利金相当額を回収することが容易であるので、賃貸人に返還義務はないという結論になるでしょう。

[ エ. 保証金]

 「保証金」は、敷金の意味で用いられることも、礼金、敷引きや権利金の意味で用いられることもあります。返還義務の有無についても、上述の説明が当てはまります。

(3)一般的注意事項

 地方によって、さらに人によって、不動産賃貸借契約時に授受される金銭の呼称及びその性質は様々です。よって、呼称のみにとらわれることなく、授受される金銭の意味、並びに返還義務の有無及びその範囲を十分に確認したうえで契約を締結すべきことは言うまでもありません。また、確認事項を証拠化しておくことも、後のトラブルを防ぐために、忘れてはいけません。

 不動産の賃貸借契約を巡るトラブルが多発していることから、住宅行政を所管する国土交通省は、「賃貸住宅標準契約書」を作成・公開しています。内容の明瞭な契約書の普及によって、トラブルを未然に防止しようとするものです。

 「賃貸住宅標準契約書」は、住宅の賃貸借トラブルの原因になるような諸事項について明確な規定を置いていますが、敷金等に関しては、以下の点を明示していることが重要です。

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  • 敷金は、損害を担保する目的で授受される金銭である。
  • 家主は、借家人退去後に敷金を清算・返還しなければならない。
  • 賃貸住宅使用のために必要な修繕をなす義務は、家主にある。
  • 借家人の修繕義務は、借家人の故意・過失による損壊の場合にのみ生じる。
  • 明渡し時、借家人の原状回復義務は、通常使用に伴う損耗については生じない。
  • 返還義務のない「その他一時金」を区別して記載する。
  • 特約事項を定める場合には、区別して記載する。

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 現在では、比較的ちゃんとした不動産業者は、建物の賃貸借の際に、「賃貸住宅標準契約書」をもとにした契約書を使うことが多くなりました。一方で、不動産所有者が、自己所有物件を直接賃貸する場合等には、契約書に好き勝手な定めを盛り込んでいる例も、いまだ散見されます。このような契約書にうかつにサインすれば、後でトラブルになることは目に見えています。

2. 敷金返還請求権

(1)請求権が発生するのはいつか?

 敷金は、借家人の損害賠償義務を担保するものなので、損害が確定するまでは、返還額も確定しません。例えば、契約期間が満了しても、借家人が建物の明渡しをぐずぐず延期していたら、その間に、明渡し義務不履行による損害は拡大していきます。よって、敷金返還請求権が生じるのは、損害の確定する時、すなわち建物の明渡し時であると解されています(最判昭和49年9月2日)。

(2)借家人から敷金返還請求権を自働債権とする賃料債務との相殺主張

 賃貸借継続中に、借家人から、家主に対して、「敷金を賃料に充当してくれ」と主張することはできるでしょうか?つまり、敷金返還請求権を自働債権として、賃料支払債務との相殺を主張することが出来るかという問題です。

 当然ながら、このような主張は出来ません。賃借人が敷金返還を請求できるようになるのは、建物明渡し時ですので、それまでは敷金返還請求権は具体化していないからです。そもそも、賃貸借継続中に、借家人からの相殺の意思表示のみをもって、差し入れた敷金が目減りしてしまうのならば、敷金の担保としての意味がなくなってしまいます。

(3)建物明渡しとの同時履行主張

 では、借家人が、「敷金を返してくれるまでは、建物を明け渡さない。」と主張することは出来るでしょうか?つまり、敷金返還義務と建物明渡し義務が同時履行の関係に立つかという問題です。

 当然ながら、このような主張も出来ません。敷金は、建物明渡しまでに生じる損害を担保するものだからです。よって、借家人は、敷金の返還を請求するよりも先に、建物を明け渡さなければなりません(最判昭和49年9月2日)。

(4)敷金から控除される項目

 敷金が担保するのは、建物の使用対価としての損害(滞納家賃、賃貸借期間終了から明渡しまでの使用料)、及びその他損害(建物の損耗、迷惑行為による損害等)です。なかでも、敷金が、建物の損耗をどこまで担保するのか(=借家人の負担になるのか)という点について、賃貸借終了時に争いが生じます。

 この問題については、賃貸借契約の趣旨に遡って考える必要があります。

 賃貸借とは、「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を払うことを約することによって、その効力を生じる」(民法第601条)という双務契約です。建物の賃貸借において、家主は、借家人に対して、建物を引き渡しただけでは、貸手としての「使用及び収益を相手方にさせる」義務を果たしたことにはなりません。すなわち、引き渡した建物を、使用収益させる状態に維持することも、家主の義務なのです。

 したがって、通常の使用で当然生じるような建物の損耗に関しては、それを修繕することは、使用収益させる側である家主の義務です。例えば、畳の日焼けや、壁紙の経年による退色、パッキンの劣化による水漏れ等の修繕費は、家主が負担すべきです。よって、これらの費用を、敷金から控除することは出来ません。

 さらに、家主は、通常損耗を補修するのに必要な費用を含んだ水準で、容易に家賃を設定することができる立場にあるのです。それにもかかわらず、敷金からも通常損耗の修繕費を控除するのであれば、二重取りになってしまいます。

 ひどい場合には、エレベーター等の共用部分の修繕費、日焼けした畳やクロスの張替、借家人退去後のリフォーム費用、空室補償等、何でもかんでも敷金から控除する旨を契約書に定めているような事例を目にすることがありますが、契約書に定めたからといって、そのような条項は無効です(消費者契約法第10条等)。

 ただし、例外的に、借家人が通常損耗を含む修繕費を負担することを条件として、破格に安い家賃で建物が賃貸されたような場合には、敷金からの控除が有効とされる場合はあるでしょう。

 他方、借家人の故意又は過失による建物の損耗を修繕する費用については、借家人が負担すべきです。例えば、喫煙したことに起因するクロスの黄ばみ、室内で暴れたことによる建物の損壊等の修繕費用は、敷金から控除してかまいません。

3. 敷金返還を実現するための手段

 借家人が建物を明け渡し、家主に対して敷金の清算・返還を請求したところ、家主が、不当な原状回復や損害賠償を主張して、敷金の返還を拒絶するというトラブルが後を絶ちません。さらには、家主が、借家人に対して、敷金から控除しきれなかった法外な原状回復費用を請求することもあります。

 借家人が、このような悪質な家主に対して返還請求を行うには、以下のような方法が考えられます。

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  • 訴訟(通常・少額)
  • 支払督促
  • 民事調停
  • ADR

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 上記のうち、両当事者の話し合いの可能性があるのならば、民事調停やADRを利用するのがよいでしょう。民事調停は、簡易裁判所で、調停委員会の手助けのもと当事者が和解する手続きです。成立した和解内容を記載した調停調書には、執行力があります(民事調停法第16条等)。つまり、調停調書を債務名義として、債務者の財産に強制執行をかけることが出来るということです。

  ADR(alternative dispute resolution 裁判外紛争解決手続)は、民間の紛争解決機関を利用した和解・仲裁手続です。民間といっても、中立な専門家をはさんで話し合えば、妥当な和解成立を期待することもできるでしょう。ただし、成立した和解契約に執行力はありません。これに対し、当事者の仲裁合意(=民事上の紛争の解決を第三者にゆだねる旨の合意)に基づいた、紛争解決機関の仲裁判断には、一定の条件のもと執行力があります(仲裁法第45条1項等)。このような紛争解決機関には、弁護士会、司法書士会、その他の職能団体の運営する各種機関が存在します。

 支払督促は、簡易裁判所の書記官を通じて、債務者に履行を請求する手続きです。支払督促は、簡易迅速に債務名義を得るための制度ですが、債務の存在自体に争いがあるような場合には利用すべきではありません。その理由について、本稿では省略します。

 話し合う余地が無い場合には、借家人が、家主を相手取って、裁判所に敷金返還請求の訴えを起こすことも検討されます。返還請求する敷金の額が60万円以下の場合には、通常訴訟の他に、少額訴訟を利用することも可能です。

 少額訴訟は、1期日で審理を終え、即日判決が言い渡される簡易迅速な訴訟方式です(民事訴訟法第370条)。争点と言えるような争点が無く、証拠が十分揃っているような事件では、原告たる借家人にとっては、少額訴訟を選択するメリットがあります。さらに、少額訴訟の勝訴判決を債務名義とする執行手続きにおいても、簡易迅速な手続きを利用することができます(民事執行法第167条の2)。

 他方で、被告となる家主にとっては、少額訴訟を利用するメリットは何もありません。そこで、少額訴訟を提起されても、被告から一方的に、通常訴訟への移行を申立てることが出来るようになっています(民事訴訟法第373条)。よって、原告は、被告による移行申立てが予想されるのであれば、最初から通常訴訟を提起するほうが賢明と言えるでしょう。

  また、争点が複雑であったり、証拠方法が多岐に及んでいたり、債務の存在が激しく争われていたり、被告からの反対請求が予想されていたりする場合には、少額訴訟は適しません。そのような場合には、通常訴訟を提起すべきです。

 神戸六甲わかば司法書士事務所では、敷金返還トラブル以外にも、貸金等トラブル、養育費等支払トラブル・・・など様々な金銭トラブルに関するご相談を受け付けています。

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