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仮差押と債権の消滅時効中断について(最判平成10年11月24日と平成29年民法改正)

投稿日:2017年12月23日【 不動産登記 | 債務整理(借金問題) | 金銭トラブル

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仮差押には、判例によって事実上他の時効中断事由(現行民法第147条)とは異なる特殊な効力が認められています。今回は、この効力について紹介するとともに、本年(平成29年)の民法大改正によって、それがどのように改められたのかを確認してみることにしましょう。

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1 仮差押による時効の中断

(1) 消滅時効の中断とは

権利者であっても一定の長期間にわたって権利行使を怠っていれば、権利行使できなくなってしまうという規律を消滅時効の制度といいます。消滅時効制度は、権利行使を怠ってきたという事実状態から生じるいろいろな不都合を解消するために存在します。つまり、消滅時効は、権利者と義務者の利害バランスを調整したり、権利の存在又は不存在の証明困難を救済したりするために存在しているのです。

 

消滅時効にかかる権利の代表的なものは債権ですが、地上権や地役権等の財産権も時効によって消滅することがあります。債権の場合、債権者が債務者に対し10年(現行民法第167条)権利行使しなければ、その債権が消えてしまうわけです。

 

消滅時効制度があるため、債権者も、安穏としているわけにはいきません。債権者は、自分の権利が時効消滅しないようにするための防御手段を取る必要があります。この消滅時効の完成を妨げる手続を「中断」といいます。ここに云う中断は、時効の進行を単に停止させるだけでなく、リセットするという2つの法律効果を生じさせる概念です。債権の消滅時効に即して言えば、債権者が9年間放置していた債権の時効の進行を9年目に中断すれば、その債権の時効は、中断事由が生じた時点で進行を停止し、中断の事由が終了した時点から(現行民法第157条)再びリセットされた10年の時効期間を算定し直すことになります。

 

現行民法において、中断事由として定められているのは、次の3つです(現行民法第147条第1~3号)。

・請求

・差押さえ、仮差押え又は仮処分

・承認

 

上記のうち、「請求」とは、債権者の単なる「支払え」という債務者に対する要求行為(「催告」)では足りず、訴訟提起等の裁判上での権利行使のことを指します。これに対して、「承認」は、債務者が債務を負っていると認める行為であれば広くこれに該当します。例えば、一部弁済したり支払猶予を求めたりすることも「承認」に当たり、時効が中断します。

 

差押えや仮差押えも含めて、これらの中断事由は、権利不行使の状態を破るという共通点があります。

 

 

(2) 仮差押による時効の中断の効果(最判平成10年11月24日)

実は、時効中断事由の中で、仮差押えによる時効中断の効果については、法文上明確ではありません。すなわち、「仮差押えをした場合に、一旦停止した被保全債権の消滅時効は、いつ再び進行し始めるのか?」という問題について、従来から争いがありました。この問題について、最判平成10年11月24日は、次のように結論づけました。

 

「仮差押えによる時効中断の効力は、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は継続すると解するのが相当である。 けだし、民法147条が仮差押えを時効中断事由としているのは、それにより債権者が、権利の行使をしたといえるからであるところ、仮差押えの執行保全の効力が存続する間は仮差押債権者による権利の行使が継続するものと解すべきだからであ り、このように解したとしても、債務者は、本案の起訴命令や事情変更による仮差押命令の取消しを求めることができるのであって、債務者にとって酷な結果になるともいえないからである。また、民法147条が、仮差押えと裁判上の請求を別個の時効中断事由と規定し ているところからすれば、仮差押えの被保全債権につき本案の勝訴判決が確定したとしても、仮差押えによる時効中断の効力がこれに吸収されて消滅するものとは解し得ない。」

 

これを分かりやすく言えば、債務者の不動産に対して仮差押えの登記がなされている限り、被保全債権についての債権者の「権利の行使が継続」しているのであるから、被保全債権は時効消滅することがないということです。さらに、被保全債権について行われた仮差押えの消滅時効に関する効力と、本案で同じ債権について勝訴判決が確定したことに伴う消滅時効に関する効果との間にも何の関係もないとの判断です。

 

 

(3) 判例の問題点

上記判例の理屈には致命的な破綻があります。

 

仮差押えは、本執行の準備行為に過ぎません。そして、その申し立てのためにも、被保全債権の存在を「疎明」することで足ります(民事保全法第13条第2項)。さらに、保全手続内での、債務者の防御機会も制限されています。

 

これらのことは、同じく中断事由である「請求」と比較して著しくバランスを欠いています。「請求」として本案訴訟を提起する場合には、原告たる債権者は債権の存在を「証明」しなければなりません。もちろん裁判上の請求に対する被告たる債務者の防御の機会は保障されています。さらに、訴状の送達によって停止した債権の消滅時効は、判決の確定によって、再び進行を開始します(現行民法第157条第2項)。

 

そもそも、保全手続きとは、債務者に気づかれないうちに取り急ぎ執行対象財産を確保しておこうという密行性と不確定性を特徴とする手続なのです。ところが、上記判例は、「仮」に過ぎない仮差押えによって、永遠に時効消滅しない債権を作ってしまったとも解されるのです。

 

実際、上記判例の後、仮差押えを濫用する事例をしばしば目にするようになりました。つまり、債権者は、本執行の可能性が皆無と言えるような場合にも、債務者の不動産に仮差押登記さえつけていれば安泰だと考えるようになったわけです。このような濫用事例においては、債権者は、債務者に対して本案の訴訟を提起することすらないのが普通です。債権者は、仮差押えの手続だけ申し立てて、仮差押登記を放置したまま、本当に「債務者」であるか証明されてもいない相手の側から、いつになるか分からないような遠い将来に任意の支払いを申し出て来るまで、気長に待ってさえいればよいのです。

 

私は、債権者が権利のうえに眠ることを許してしまうような判例の理論は、時効制度の趣旨にも保全制度の趣旨にも反していると考えます。

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2 時効に関する民法の改正

(1) 概念整理:「中断」から「完成猶予」「更新」へ

「中断」には、時効の進行を停止させるという効果と、時効期間をゼロから起算し直すという効果とが不可分に伴うとされています。しかし、従来から、前者の効果のみを持つ「停止」(現行民法第158~161条)という概念があったし、「催告」(現行民法第153条)の効果も前者に近いものと考えることもできます。つまり、「中断」は、概念的に十分整理されているとは言えないわけです。時効中断事由として、「請求」、「差押え」、「仮差押え」、「承認」等が同列に規定されてしまっていることも、混乱を招く原因でした。

 

そこで、平成29年改正法においては、「中断」及び「停止」という概念の代わりに、時効の進行を停止させる効果を「完成猶予」として、時効期間をゼロから起算し直すという効果を「更新」として整理し直しました。

 

この概念整理に伴って、改正法は、従来時効の中断・停止事由として一緒くたに規定されていたものを、完成猶予効と更新効の両方を持つ事由(裁判上の請求、強制執行等。改正民法第147条、148条)、完成猶予効のみを持つ事由(仮差押え、催告、協議合意、後見人等不在、夫婦間の権利、相続財産に関する権利、天災等の場合。改正民法第149~151条、158~161条)、及び更新効のみを持つ事由(承認。改正民法第152条)とに分けて規定しました。

 

 

(2) 仮差押の完成猶予効

改正民法第149条は、仮差押え等の事由が生じた場合、「その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、時効は完成しない。」と規定しています。つまり、改正法のもとでは、仮差押えを行っても、6箇月という短期間のうちに本案の裁判を提起したりしない限り、もともとの時効期間(リセットされない)が経過すれば、消滅時効が完成してしまうわけです。

 

この改正は、保全手続きの不確定性という性質に適合したものです。また、この改正により、上記1(2)の最高裁の判決は判例としての意味を喪失します(ただし、改正附則第10条第2項により、改正法施行前に生じた時効中断の効力については従前のとおりに扱われます。)。

 

 

(3) その他、時効に関する改正点

上記の他にも、時効に関しては、消滅時効期間の統一が行われ(改正民法第166~169条)、現代社会において既に社会的役割を失っている短期消滅時効(現行民法170~174条、商法第522条)に関する規定が削除されました。また、講学上「除斥期間」として「消滅時効」とは区別されていた期間制限に関する規定が、消滅時効制度に統一されました(改正民法第724条第2号等)。

 

 

 

今回改正された民法は、平成32年4月1日に施行される予定です。同改正には、時効に関連する他にも、興味深い論点がたくさんありますが、それらについては、また別稿で紹介したいと思います。

 

 

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