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「身元保証」ビジネスの影 ~公益財団法人日本ライフ協会の事件をとおして~

投稿日:2016年04月28日【 消費者被害 | 金銭トラブル

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 平成28年3月末、民事再生手続き中であった公益財団法人日本ライフ協会は、再生の受け皿として期待をかけていた一般社団法人「えにしの会」が支援を辞退したことから、破産することが確実となりました。

 日本ライフ協会のような「身元保証」ビジネスを行う団体は、高齢化社会の進展とともに、ここ数年で急速に数を増やしました。しかし、これら団体やその活動を統制するための法律や制度は欠如しており、この状況が改善されないままであれば、今後も類似の事件は多数起こることが予想されます。そこで、今回は、本事件について整理し、「身元保証」ビジネスの問題点を考えてみましょう。

1. 本事件の経緯

イメージ:身寄りがない

 日本ライフ協会は、平成14年に前身となる団体(非法人)から、特定非営利活動(NPO)法人や一般財団法人への数度の組織改編・分化を経て、平成22年に内閣府の公益認定を受け「公益財団法人日本ライフ協会」(以下、「本件協会」といいます。)となりました。

 本件協会は、平成28年1月時点で、全国18カ所の事業所、1以上の傘下法人、従業員125名、会員約2600名という大きな組織になっていました。

 本件協会が、創業間もなく始めた「みまもり家族」事業は、①医療・介護施設等への入院・入所の際の「身元保証」、②日常生活に付随する事務支援、③葬儀・納骨の手配、を内容とする事業です。①~③は、従来、支援を必要とする高齢者に近い親族が、なんとなく担ってきた事務や法律行為です。つまり、本件協会は、親族に頼ることのできない事情を抱えた高齢者に対して、①~③の役務を有料で提供するという事業を行っていたのです。これらの中心を占めるのは、①「身元保証」事業です。

 本件協会は、大雑把に言えば、会員との間で、一人当たり約150万円の契約金を一括徴収し、そのうち約100万円を入会金・会費等として扱い、残りの約50万円を葬儀費用等のための預託金として扱うという契約をしていました。この内訳を分かり易く言えば、100万円については、収入に当たるので、本件協会が事業のために使っても良いということです。これに対して、50万円については、会員から預かっただけだから、実費を精算したうえで返還すべきであるということです。会費分については、契約時に一括で支払うという方法が主流だったようですが、月会費の形式で支払うという選択肢もあったとされます。

 本件協会は、公益認定申請時には、会員との契約に際しては預託金の保管者として法律専門家を介在させる「三者契約」の方法だけを用いることを事業計画の内容としていました。これは、三者契約の方法であれば、預託金が適正に管理されるから、公益性を担保できるはずだという理由によります。

 しかし、本件協会は、この事業計画に基づいて平成22年に公益認定を受けるや直ぐに、監督官庁である内閣府に無断で、法律専門家の介在なしに、会員と「二者契約」の方法による契約を結ぶようになりました。すなわち、約150万円全額を同協会が受け取れるようにしたということです。

 本件協会は、預託金を従業員給与等の運営費に流用するなど、預託金について分別管理するという仕組みを持ち合わせていなかったようです。また、平成23年4月からは、事実上傘下にあるNPO法人に対し公益認定法違反の事業資金の長期貸付けを行うようにもなりました。後に、本件協会がこのNPO法人から貸付金回収を行う際にも、金融機関に対して、NPO法人のために、本件協会の定期預金を担保として提供するという粉飾まがいの行為を行っていたことも明らかとなりました。

 そのような杜撰な運営をしながらも、本件協会は、全国各地に事業所を新設し、拡大を続けました。

 結局、債務超過に陥った本件協会は、平成28年1月、大阪地方裁判所に対し民事再生手続開始申立てを行いました。この民事再生手続きにおいては、本件協会の経営陣によるまともな財産管理をあてにすることが出来ないため、保全管理人(民事再生法第79条)が選任されました。

 保全管財人は、本件協会の事業を引き継ぐ支援者として同種事業を手掛ける一般社団法人「えにしの会」との間で、3月3日、事業譲渡契約を締結し、一旦は本件協会の事業が継続されることが決まるかに思われました。しかし、この契約からわずか10余日後、えにしの会は、資金調達が困難であることを理由として、保全管理人に対し、この契約を解除する通知を行いました。

 平成28年3月18日、内閣府は、本件協会に対する公益認定を取消しました。

 支援者がいなくなってしまった以上、本件協会には、破産という選択肢しか残されていません。破産となれば、本件協会の行っていた全ての事業は終了し、破産管財人のもと財産の換価と配当手続きが行われ、本件協会は消滅します。

 本件協会の会員のうち三者契約を行った者については、預託金全額の返還を受ける可能性は高いでしょう。しかし、契約の方式に関わらず、全ての会員について、一括で支払った会費については将来分についての全額の返還を受けることは出来ないでしょうし、もちろん「身元保証」等の役務が今後履行されることもありません。

 以上が、現時点(本稿を書いた平成28年4月8日)で、判明している本事件についての経緯です。今後、管財人による調査が行われる過程で、さらにいろいろな事実が明らかになってくるでしょう。

 ところで、監督官庁である内閣府は、本件協会に対し、平成25年5月に立ち入り検査をおこなっていたようです。ということは、内閣府は、比較的早い段階で、本件協会が公益認定に反する行為をしていたことに気づいていたのでしょう。その後も、公益認定等委員会が、本件協会に対して、数回にわたって報告書を徴求したり、指導を行ったりしたようです。

2. 身元保証ビジネスの問題点

(1)「身元保証」とは

 上記1では、「身元保証」という用語を特に定義もせずに用いています。さて、ここで言う「身元保証」とはどのような行為を指すのでしょうか?

 医療・介護施設に入院・入所する際に、施設側は、契約者である本人に対して、「身元保証人」をつけることを要求します。このような契約又は手続き方法を採る施設は、全体の9割以上にも達すると言われています。

 施設側が「身元保証」によって担保しようとしているのは、(a)緊急時の連絡先、(b)医療行為・介護計画への同意、(c)死亡時の遺体・遺品の引取り、及び(d)費用の精算です。これらの事務等を「身元保証人」に行わせることによって、施設側の負担や責任を軽減しようというわけです。

 通常、施設を利用しようとする本人に、家族・親族等がいれば、「身元保証」を依頼することも出来るでしょう。しかし、家族・親族がいない場合、家族・親族に対して頼みづらい事情があるような場合等、「身元保証人」を探すことは容易ではないことがあります。「身元保証人」を立てることが出来なければ、施設への入院・入所を拒否されることも稀ではありません。

(2)根拠法律の不在

 上記2(1)のように、「身元保証」の利用が常態化しているにもかかわらず、実は、「身元保証」を規律する法律は存在しません。

 「身元保証人」の責任については、契約書に定めがあったとしても、責任の範囲が必ずしも明確というわけではありません。たとえば、本人又は家族以外の第三者「身元保証人」が医療行為に同意しても、その同意には何の意味もありません。また、「身元保証人」が、本人の費用等債務を支払う義務を必ずしも負っているというわけでもありません(民法第446条等)。

 他方、「身元保証」を求めることが施設にとって必須であるという「常識」についても疑ってみる必要があります。たとえば、本来、病院や特別養護老人ホーム等は、「身元保証人」がいないという理由で、入院・入所を拒否してはならないのです(医師法19条等)。

 ちなみに、「身元保証ニ関スル法律」という古い法律が存在しますが、これは雇用関係等において慣習化していた過度な身元保証を規制するための法律であって、本稿で問題としているような「身元保証」には適用されません。ただ、このような法律があるということは、日本には古くから、「もしもの時には第三者に責任を取ってもらえばよい」と安易に考える風土があったということを示しています。

(3)監督官庁の不在

 「身元保証」事業自体について、許認可を発したり監督したりする官庁は存在しません。

 「身元保証」事業をおこなう団体の多くは、法人化しています。法人形態は、一般社団・財団法人、特定非営利活動(NPO)法人、公益社団・財団法人等、様々です。もちろん、法人形態によっては、本件協会のように、監督官庁が存在する場合もありますが、その場合でも、監督官庁が「身元保証」事業自体を監督しているわけではないのです。本件協会が、公益認定を取り消されてしまえば、再び何の監督も受けない状態に戻ってしまうだけです。

 したがって、国は、「身元保証」ビジネスの実態については、何も把握していないのです。たまたま本事件の主役が公益財団法人であったため、行政や世間の関心を引くことになっただけです。

(4)預託金の管理について

 本件協会は、会員から徴収した収入(入会金・会費等)と預託金(葬儀等に充てるための費用金)とを分別管理していませんでした。分別管理することは、他人の財産を管理するうえでの基本ですから、これをしていなかったということは言語道断というほかありません。

 しかし、仮に本件協会が預託金を分別管理していたとしても、倒産の際には預託金も含めて、本件協会の一般債権者のための引き当てとなることを避けることが出来ないでしょう。つまり、預託金口座も、差し押さえられたり、破産財団に組み込まれたりするということです。会員が優先的に預託金を返してもらえるわけではないのです。

(5)結び

 「身元保証」ビジネスが野放し状態になっているのが一番の問題であるからと、これを規律する法律を作ったり、特定の官庁の監督下に置いたりすれば良いと考える方もいるかも知れません。しかし、本事件の問題の本質はそこではないと私は考えます。

 そもそも、「身元保証」は必要でしょうか?「身元保証」なんて契約手法は不要かつ有害なだけだと思います。よって、指向すべきは、「身元保証」契約の禁止だと考えます。

 誰でも歳を取り、誰にでも身体や心の自由が利かなくなってしまう可能性があります。このようなときに個人を支援するのは、法制度や社会保障の役割です。ビジネスの出る幕ではないでしょう。

 神戸六甲わかば司法書士事務所では、「身元保証」に関するトラブル以外にも、敷金返還トラブル、貸金等トラブル、養育費等支払トラブル・・・など様々な金銭トラブルに関するご相談を受け付けています。

金銭トラブルに関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

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