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債権の消滅時効について

投稿日:2016年10月05日【 債務整理(借金問題) | 金銭トラブル

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権利があるからといって、いつまでもそれを行使できるというわけではありません。権利の行使には、時間的な制限があるのです。このような時間的制限には、消滅時効と除斥期間という趣旨を異にする二つの制度があります。

 

今回は、債権の消滅時効について、主に貸金債権のそれを念頭に置いて、誰でも知っておくべき基本的事項を整理してみることにしましょう。

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1. 債権の消滅時効

(1) 債権の消滅時効についての規律

債権は、原則として10年間行使しないときは、消滅します(民法第167条第1項)。

 

これは、たとえば、AがBに対してお金を貸したまま、約定の弁済期から10年を超えて返済も受けず、請求もしないでいたような場合に、Bの返済義務が無くなるということを意味します。

 

これに対して、債権が商行為によって生じた場合(=商事債権)には、原則として5年間行使しないときは消滅すると定められています(商法第522条)。

 

たとえば、会社である消費者金融業者Cが消費者Dにお金を貸したが、約定の弁済期から5年を超えて返済も受けず、請求もしないでいたような場合には、Dの返済義務が無くなってしまうということです(会社法第5条等)。

 

お金を貸すプロである消費者金融業者が、保有する債権を消滅時効にかけてしまうなどということがあるのか、と不思議に思う人も多いことでしょう。しかし、債務者が返済未了のまま行方不明になってしまったような場合、消費者金融業者が、事実上何らの対抗手段(後記2(2)の「請求」)もとらぬまま、時効期間を経過してしまうということは珍しくありません。

 

商事債権の消滅時効期間が短いのは、商行為の対象とする取引が大量・反復的で、その処理を迅速に行わなければならないという必要性があるためです。また、商人(=商行為を業として行う人)であれば当然に債権管理能力を備えているはずであるから、その債権が短期間で消滅するとしても、そのようなリスクを甘受すべきだからです。

 

また、上記の原則的規定のほかに、民・商法その他の法律に、様々な短期の消滅時効が定められています。例えば、医師の診療報酬債権の消滅時効は3年(民法第170条第1項)、卸売業者の売掛債権のそれは2年(民法第173条第1号)、ホテルの宿泊費債権のそれは1年(民法第174条4号)、といった具合です。しかし、このように債権の発生原因ごとに短期の消滅時効を定める意味は、現在ではほとんど失われています。そこで、数年内に行われるはずの民法改正においては、これらの短期消滅時効の整理・統合も行われる予定となっています。

 

さらに、債権の存在が確定判決によって認められた場合には、もともとの債権の消滅時効の期間が何年と定められていようと、確定の時から一律に10年間の消滅時効期間の進行が開始することになります(民法第174条の2)。たとえば、ホテルを経営する事業者が、宿泊客を相手として、宿泊費用債権(もともとの時効期間1年)を請求する訴訟を起こし、この勝訴判決が確定した場合、同債権の消滅時効期間はさらに10年延長されるわけです。

 

確定判決だけではなくて、これと同様の効力を有する裁判上の和解や調停等によって確定された債権についても、同じように消滅時効期間が10年となります。

 

 

(2) 消滅時効の趣旨

債権に消滅時効があるということは、債権者にばかり不利益を強いているように見えます。お金を貸した者が、借りた者に対して、親切心から返済を宥恕してあげていたら、いつの間にか全く返済を受けることができなくなってしまうということだからです。では、このように債権者にとっては不公平な消滅時効という制度は、なぜ存在するのでしょうか?

 

時効制度(消滅時効のみでなく、取得時効も)の趣旨としては、次の3つがあるとされます。

 

ⅰ 長期に存在する事実状態をもとに形成された権利関係を保護する。

ⅱ 過去の事実の立証困難を救済する。

ⅲ 権利の上に眠るものは保護しない。

 

これらⅰ~ⅲの制度趣旨は、どれか一つが正しいというわけではなくて、複合して時効という制度を正当化するものと考えられます。

 

たとえば、債務者Yが、債権者Xに対する債務を返済し終わったと思い込んで、長年月が経過したある日、突然、Xから返済を求められたという場面を考えてみましょう。このとき、Yにとっても、Yの取引先等の関係者にとっても、Xに対する債務がないとの前提で事実や法律関係が長い年月をかけて積み重なっていることがあります。ここで、もしXの請求を許してしまうと、これらの事実・法律関係を覆してしまうことになるかも知れません(上記ⅰ)。また、本当にYがXに対して返済していたとしても、レシートや弁済証書等が紛失してしまって、今さらYに返済の事実を証明させるのは酷であるということもあるかも知れません(上記ⅱ)。さらに、長い間、自分の債権を放ったらかしにしておいたXにも、懈怠の責任を負わせても然るべき場面もあるでしょう(上記ⅲ)。

 

時効の制度趣旨ⅰ~ⅲとは、要するに、権利が行使されないという事実状態が長期間継続することから生ずる様々な問題(事実・法律関係の安定化の必要、証拠の散逸、権利者の懈怠)に対応したものだと理解することができるでしょう。

 

 

 

2. 中断と援用

(1) 時効の援用とは

債権の消滅時効期間が経過したからといって、当然に債務者の履行義務が消滅するわけではありません。債務者は、履行義務を免れたいのであれば、時効期間経過後に、時効を「援用」(民法第145条)しなければなりません。

 

援用とは、時効の効果を受けるという旨の相手方に対する一方的な意思表示のことです。援用は、訴訟内外を問わずに行うことが出来ます(大判昭和14年3月29日)。訴訟外で時効を援用する場合には、内容証明郵便を利用するのが一般的です。

 

援用するか否かは、援用権者(債権の消滅時効の場合には、援用権者=債務者ということ。)の意思にかかっています。もし、債務者が、消滅時効期間の経過した古い債権に対して、返済しようと思うのであれば、援用せずに、返済しても構わないのです。

 

ところで、租税等、国の債権にも消滅時効が定められていますが、これに対する履行義務の消滅のためには援用を要しません(会計法第30条、31条等)。つまり、租税債権は、中断(下記(2))事由なく5年を経過すれば、当然に消滅するのです。

 

 

(2) 時効の中断とは

時効は、権利の不行使という事実状態が継続することから生ずる問題を解決するための制度です。逆に言えば、権利が正常に行使されているのならば、時効期間の完成を阻止すべきというだということになります。

 

このため、民法は、時効の完成を阻止する「中断」という制度を定めています(民法第147条)。中断は、単に時効期間の進行が止まるだけではなくて、中断の事由が生じた時点に時効期間を初期化する(ゼロから再スタートする)という効果をもつ制度です。中断事由としては、次の三つがあります。

 

① 請求

② 差押、仮差押又は仮処分

③ 承認

 

まず①「請求」とは、単に相手方に履行を要求するという普通の意味(これを「催告」といいます。)ではありません。時効を中断するための「請求」とは、裁判所を利用する手続きである必要があります。たとえば、訴訟、支払督促、裁判上の和解手続、及び破産手続きへの参加等が、ここでいう「請求」に該当します。

 

次に③「承認」とは、債権の消滅時効が問題となる場面では、債務者が自ら債務を負っていると認める旨の意思表示をすることです。たとえば、債務者が、債権者に対して、「私は○○さんに、金100万円を借りました。」と一筆差し入れることは、ここでいう「承認」に当たります。さらに、債務者が、債権者に対して、債務の一部を返済することも、返済という行為によって黙示の「承認」をしたことになります。

 

②「差押、仮差押又は仮処分」については、分かり易いので、説明は省略しますが、①~③の中断事由は、いずれも権利不行使の状態を破るという点で共通しています。

 

 

 

 

追記(2017年12月23日)

平成29年時効制度に関する諸規定について民法等の改正が行われました(平成32年4月1日施行予定)。時効制度に関連する論点についてコラム「仮差押と債権の消滅時効中断について(最判平成10年11月24日と平成29年民法改正)」を公開しましたので、併せてお読みください。

 

 

 

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