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相続人の不存在

投稿日:2015年07月27日【 相続

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 人が亡くなれば、その人の財産をしかるべき人に承継させる手続きを行います。時には、意図的に承継しない(又は、させない)手続を行うこともあります。これらのことを一般的に「相続手続き」と呼んでいます。通常は、法定相続人なり、受遺者なりが主導して、相続手続きが進行します。

 では、手続きを主導する立場の者を欠いてしまった場合、誰が手続きを行うのでしょうか?亡くなった人(以下、「被相続人」という。)の財産は、最終的に誰に帰属するのでしょうか?また、相続人が戸籍上は存在するが、行方不明であった場合にはどうでしょうか?今回は、このような問題について整理してみましょう。

1. 相続人の本来的不存在

(1)手続きは誰が行うのか?
イメージ:相続人の不存在

 相続人が全くいないのかという問題は、戸籍だけを見て簡単に結論づけられるものではありません。一見すると法定相続人がいない場合でも、例えば、戸籍上表示されていない嫡出子、死後認知されるべき子(民法第781条2項、同法第787条)、包括受遺者(民法第990条)等がいる可能性はあります。

 そこで、一見して相続人がいない場合、相続財産は一旦法人となり(民法第951条)、家庭裁判所によって相続財産管理人が選任される(民法第952条1項)ことになります。相続財産管理人の選任審判は、職権で行うことは出来ないので、相続債権者等の利害関係人又は検察官が申立てを行います。

 相続財産管理人の役割は、以下のようなものです。

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  • 相続財産目録の調製(民法第953条、同法第27条)
  • 相続財産の保存行為等(同法第953条、同法第28条)
  • 相続財産についての報告(同法第954条)
  • 相続債権者等の捜索と弁済(同法第957条)

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(2)相続財産の帰属

 相続人が全くいないことが確定し、相続債権者も受遺者も権利を主張せず、又は相続債権者及び受遺者への弁済をしても相続財産が残った場合、その相続財産は誰に帰属するのでしょうか?

 この場合には、「特別縁故者」への相続財産分与(民法第958条の3)が行われることがあります。

 「特別縁故者」とは、被相続人と生前に特別の関係があったけれども相続権を有しない者のことです。例えば、被相続人の内縁の妻や、被相続人の療養看護をしていた亡子の妻などが特別縁故者に当たります。

 被相続人と生前に特別な関係にあった者が、特別縁故者に該当するのか、該当するとしてどのくらいの財産を分与されるのかということは、申立てによって家庭裁判所が審判を行い決定します。

 特別縁故者への分与審判をした(又は分与しないことが確定した)後に、残余の財産があれば、その財産は国庫に帰属します(民法第959条)。ただし、その財産が他の者との共有にかかる持分権であった場合には、国庫帰属は行われず、被相続人の持ち分が他の共有者に帰属します(民法第255条。最判平1年11月24日)。

2. 相続人の事実上不存在

(1)「相続人の事実上の不存在」とは?

 戸籍上は相続人が存在することが容易にわかるけれども、その相続人が行方不明等のため、相続手続きを主導することが出来ない場合があります。このような場合に、誰がどのように相続手続きを進めていくのかということは、実務上高い頻度で遭遇する問題です。

 典型的な事例は、共同相続人間で遺産分割協議をする必要が生じたが、そのうちの一人が出奔したまま長年月にわたって音信不通になってしまっているというものです。相続手続きの一部である不動産の相続登記一つをとってみても、共同相続人全員が関与する必要がありますので、このような不在者がいると相続手続きが停滞してしまうことになります。

(2)対処法

 では、相続人が事実上存在しない場合に、どのような方法で相続手続きを進めていけばよいのでしょうか?以下、検討してみましょう。

[ あ. 遺産分割審判(民法第907条2項)ができるか?]

 民法第907条2項は、「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することが出来る。」と定めています。

 共同相続人の一人が事実上不存在であることが、ここで言う「協議をすることができないとき」に当たれば、家事事件手続き(調停・審判)を利用して遺産分割をすることが出来そうに思えます。

 しかし、共同相続人の一人が事実上不存在であることは、「協議をすることができないとき」に当らないと考えるべきでしょう。なぜなら、不在の相続人にとって、不存在ということだけで他の共同相続人が勝手に遺産分割できてしまうのであれば、財産権を失うという重大な結果に対する手続的な保障が全くないことになるからです。

[ い. 遺産分割協議ができるか?]

 不在者であっても、生きている限り財産権を持っており、その権利は保護されるべきです。しかし、不在者が財産を管理・処分することは、事実上不可能です。そこで「不在者財産管理人」(民法第25条)によってこれを行うことができます。不在者財産管理人に権限があるならば、他の共同相続人との間で、遺産分割協議を成立させることもできるでしょう。

 不在者財産管理人は、不在者本人が委任によって選任することもできますが、通常は、利害関係人からの申立によって、家庭裁判所が選任します。不在者財産管理人の権限は、委任による選任の場合には、委任契約の内容によって定められます。これに対して、家庭裁判所の選任する不在者財産管理人の権限は、原則として保存行為等に限定されて(民法第28条、同法第103条)います。保存行為とは、財産の現状を維持する行為に過ぎませんから、遺産分割協議のように財産権を処分する行為は含まれません。

 委任契約の中に遺産分割協議をすることが定められていない場合、又は家庭裁判所によって選任された不在者財産管理人が遺産分割をする場合、遺産分割協議をすることは管理人の通常の権限を越える行為ですから、家庭裁判所の許可審判を経たうえで行うことになります(民法第28条)。

[ う. 失踪宣告]

 不存在の相続人の生死が7年間明らかでない状態が続いている場合(普通失踪)、戦地に行ったが戦争が終わった後も1年間生死が明らかでない場合等(特別失踪)は、共同相続人等の利害関係人は、家庭裁判所に対して不在の相続人に関する「失踪宣告」審判の申立てを行うことが出来ます(民法第30条、同法第31条)。

 「失踪宣告」とは、失踪者を、従来の住所地を中心として、私法上死亡したのと同じに扱う民法上の制度です。「従来の住所地を中心として」というのは、仮に失踪宣告を受けた者が生きており、どこかで私法上の行為を行ったとした場合、その効果までが否定されるわけではない、という意味です。

 失踪宣告によって不存在の相続人が死亡したとみなされる結果、不在者を除いた他の共同相続人によって遺産分割等の相続手続きを進めることが可能となります。(もちろん、失踪宣告によって失踪者が死亡したとみなされる時点によっては、失踪者自身の相続手続きが必要となることはありますが、これは今回のテーマとは別の問題です。)

 失踪者が、失踪宣告後に生存していることが判明した場合は、家庭裁判所の審判によって失踪宣告を取り消す必要があります。失踪宣告取り消しの結果、失踪宣告ははじめに遡ってなかったものとして扱われ、すでに行った相続財産の承継については不当利得の一般原則に従って処理されることになります(民法第32条2項)。

[ え. 認定死亡]

 事故や災害などで死亡したことが確実であるが、遺体が確認されなかったような場合には、警察署長等の取り調べ担当行政庁が死亡を認定して、戸籍上、不在者(=被害(災)者)を死亡したものと扱う戸籍法上の制度があります(戸籍法第89条)。

 認定死亡によって不在者が死亡したものと扱われる結果、不在者を除いた他の共同相続人によって遺産分割等の相続手続きを進めることが可能となります。

 認定死亡の場合には、失踪宣告とは異なって、戸籍上不在者の死亡が推定されるだけなので、仮に不在者が死亡認定後に生きていることが判明した場合には、死亡認定の効力は当然に生じていないことになります。不在者を除いて行われた相続手続きはもちろん無効です。

 神戸六甲わかば司法書士事務所では、相続に関する様々なご相談を受け付けています。

相続に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

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