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破産者の財産について

投稿日:2015年08月06日【 債務整理(借金問題)

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 破産する(破産開始決定を受ける)と、破産者の財産はどうなってしまうのでしょうか?また、破産者の財産の多寡によって、破産手続の進め方はどのように変わってくるのでしょうか?このような疑問は、破産申立てを検討している債務者にとっても、相手方である債権者にとっても気になるところです。

 そこで、今回は、破産者の財産に注目しながら、破産という制度について考えてみましょう。

1. 破産とは

(1)破産というルールがないとどうなるか?
イメージ:破産

 債務者が、自らの負う債務を継続的に弁済することができない状態(=支払不能)に陥った場合、放置しておけば、債権者が我先に債務者の財産を奪い取っていくような事態を生じかねません。すなわち、債権者が個別に、債務者財産に強制執行をかけることもあるでしょうし、トラックで債務者宅に乗り付けて財産を根こそぎ持ち去ってしまうこと(=自力救済)もあるでしょう。しかし、これでは、偶々いち早く債権回収を始めた債権者と、出遅れてしまった債権者との間に不公平が生じてしまいます。

 さらに、このような個別の債権回収にさらされた債務者は、夜逃げや自殺等の極端な行動をしてしまうかも知れません。そうなれば、債務者は、更生の機会を失ってしまいます。

(2)包括的執行という意味

 上記(1)のような不都合を避けるため、破産手続は、全ての債権債務関係の処理及び債務者財産の清算を、一つの手続きでまとめて行う仕組みになっています。

 すなわち、破産開始決定があると、「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は、破産財団と」なり(破産法第34条1項)、破産管財人の管理下に置かれることになります(破産法第79条)。この反対効果として、破産者自身は、破産財団に属する財産を自由に利用・処分等することはできなくなります。

 破産手続開始以降、破産管財人のもとで、破産財団に属する財産の管理及び換価、並びに債権者への配当等の手続きが進行します。債権者が破産財団を構成する財産に対して個別に執行することは出来ません(破産法第42条)。要するに、破産とは、「破産債権者団」対「破産財団」という対立的枠組みの中で、清算的処理を行う手続き(=包括的執行)であると考えることが出来ます。

 「破産手続開始の時」を基準として執行対象となる破産財団が定められることから、破産者がその「後」に取得した財産(=新得財産)については、包括的執行の対象にはなりません。例えば、破産者が破産開始決定後に支給をうけた給料については、破産者が自由に使うことが出来ます。

(3)執行対象の財産がない場合

 上記(2)のように、包括的執行が破産手続の中心であるとするのならば、執行対象となる財産がないような場合にまで、破産手続を行うことに意味があるのでしょうか?

 この疑問に対しては、執行すべき財産がなくても、破産手続を続けることに意味がある場合もあると答えることが出来るでしょう。

 例えば、会社等の法人が破産する場合には、財産の有無に関わらず、破産手続終了までは法人格が消滅しません(破産法第35条)ので、破産手続を経なければなりません。また、破産手続の中で、債権債務関係や財産をきちんと調査をしなければ、破産財団を構成する財産が無いとは分からないこともあります。さらに、浪費や賭博などの原因によって破たんに至った破産者に対して、破産管財人による観察と指導を行うことによって、破産者を更生に導くこともあります。よって、一見して財産が無いからと言って、破産手続が要らないとは必ずしも言えないのです。

 とはいえ、自然人が自ら申立てて破産(=自己破産)する多くの場合にそうであるように、はじめからどう見ても財産のないことが明らかであるような場合に、わざわざ形式上だけ破産手続を続けることにやはり意味のないことも多いのが事実です。

 そこで、「裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない」(破産法第216条1項)とされています。このような処理を行う破産事件を、「同時廃止事件」と呼びます。これに対して、原則通り破産財団の清算処理を行う破産手続のことを「管財事件」と呼びます。

 同時廃止とは、破産手続の開始を宣言すると同時に、その終了を宣言するということです。破産手続が同時廃止されると、破産者財産の清算については問題にはなりません。清算するような財産が無いのだから、当然です。

 同時廃止後は、破産者の免責手続(破産法第12章)のみが残りますが、本稿ではこれについては述べません。

2. 自由財産とは

 破産開始決定がなされると、破産者の有する「一切の財産」が清算処理に回されてしまうと規定されています(破産法第34条1項)。ここだけ見ると、破産者は文字通り一文無しになって、食べていくことすらできなくなってしまうかのようですが、決してそんなことはありません。

 破産しても、破産者の生活に最低限必要なものとして、自由に管理処分できる一定範囲の財産(以下、「自由財産」という。)を保持することが認められています(破産法第34条3項、同条4項)。それは以下のようなものです。

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  • 99万円以下の現金
  • 差押禁止財産(例:家財道具、年金や退職金債権等の一定割合)
  • 裁判所の決定により自由財産とされた財産

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 つまり、破産しても、数か月暮らしていけるだけの現金を持つことは法律上許されています。そのうえ、新得財産(上記1(2))については、もともと破産手続に関係なく自由処分できるので、破産しても会社勤めなど続けて生活していくことが出来ます。家財道具も奪われることはありません。

 また、各地の地方裁判所で、換価価値の少ない財産(実務上、20万円以下とされます。)については、現金と合計して99万円の価値に達するまで、当然に自由財産の拡張があったものとする実務上の取扱いがなされるのが一般的です。例えば、査定額が20万円以下の中古自動車や、解約払戻金額が20万円以下の保険契約等がこれに当たります。これらについては、破産財団を構成しないので、破産者が管理処分することが出来ます。

 さらに、一旦破産財団に入った財産であっても、簡易迅速に破産処理を進める必要性等から、破産管財人によって放棄(破産法第78条2項12号)されることもあります。放棄された財産については、破産者(自然人の場合)の自由財産になります。

 自由財産という概念は、本来、破産開始時点で破産者の有する財産を、包括的執行の対象財産(破産財団)と対象外財産(自由財産)とに分類するためのものです。よって、自由財産が生じるのは、破産財団が形成される場合のみ、即ち管財事件においてのみです。

 これに対して、同時廃止事件においては、もともと、破産者の財産管理権が失われることがない(=破産財団が形成されない)ので、自由財産は生じません。不自由財産である「破産財団」というものが生じないのですから、わざわざ「自由財産」という項目を立てる必要がないのは当然です。

 しかし、本来の意味の「自由財産」とは別に、同時廃止事件においても「自由財産の範囲」は問題となります(下記3(1))。

3. 実務上の問題

(1)同時廃止の選択基準

 破産事件を、管財事件とするか、又は同時廃止事件とするかを分ける主要な基準は、財産の多寡にあります。破産者の財産が多ければそれを換価・配当する(管財事件)必要があるのに対して、配当する程の財産が無ければ早期に破産手続を終了させて(同時廃止事件)しまう方が良いからです。

 同時廃止すべき場合とは、「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足する」(破産法第216条1項)ときです。この「破産手続の費用」の最低限を画する基準は、破産管財人の報酬です。すなわち、破産財団を換価しても管財人報酬(少額管財事件において20万円程度)にすらとどかない場合には、同時廃止処理すべきということです。

 しかし、たとえ破産者が合計20万円を超える換価価値のある財産を持っていたとしても、それが当然に「自由財産の範囲内」にすぎないのであれば、管財事件として破産手続を続けても意味がありません。自由財産となれば、破産債権者への配当にも、管財人報酬にも充てられないからです。

 例えば、破産者が、退職金債権(評価額20万円以下)や中古自動車(評価額20万円以下)等を持っていたとしても、それらの価値が手持ちの現金と合計して99万円以下しかないのであれば自由財産となってしまう(上記2)ので、管財事件として破産手続を継続する意味がありません。このような場合には、同時廃止事件として処理すべきでしょう。

(2)現金と普通預金

 普通預金は、あたかも「現金を入れた財布」のように用いられますが、法律的には金融機関に対する預金債権の一種です。では、破産者の財産が、普通預金30万円と現金20万円のみであった場合、同時廃止できるでしょうか?

 普通預金と現金が実質的に同じであることを重視するならば、破産者は自由財産範囲内である合計50万円の現金を持っているのと同じですから、同時廃止できるという結論になるでしょう。

 これに対して、預金債権と現金とが別種の財産権であることを重視するならば、30万円の預金債権は、破産手続を経て換価するか、又は自由財産拡張決定を経る(破産法第34条4項)必要のある財産という結論になるでしょう。管財事件として破産手続を継続する必要があります。

 実務が上記どちらの立場に立っているのかは、各地裁によって異なります。ここでは、特定の地裁の取扱について言及しません。

(3)按分弁済

 破産者が項目別に20万円を超える財産を持ってはいるけれども、現金と合計すれば99万円以下の価値しかないような場合はどうでしょうか?

 例えば、破産者の財産として、現金50万円、保険解約払戻金請求権30万円、及び中古自動車(評価額15万円)があるような場合を考えてみましょう。ここで、保険解約払戻金請求権が20万円を超えている点が問題となります。

 原則通り、管財事件として処理されるならば、破産者は、手持ちの現金の中から管財人報酬を支払ったうえで、保険金払戻請求権については全額について自由財産拡張の申立てをします。そのまま自由財産拡張が許可されると、破産財団を構成する財産が無くなってしまうので、破産手続は終了する(=異時廃止)ことになるでしょう。このような処理は、手続的には正しいのでしょうが、実質的には、管財人に報酬を払うだけの手続でしかないようにも見えます。

 そこで、破産者の申立代理人等が、裁判所の指示のもと、保険解約払戻金相当額を、破産債権者に対して按分に配当し、破産手続を同時廃止させるという処理(=按分弁済)が行われることがあります。つまり按分弁済においては、申立代理人等が、臨時の管財人として、簡易に清算処理を行ってしまうのです。これならば、破産者が管財人報酬を払う必要はないし、債権者もいくらかの配当を受けることが出来るわけです。

 しかし、按分弁済は、法律に規定のない便宜的な処理です。よって、各地裁によって按分弁済の採否及び運用基準には大きな差があります。ここでは、特定の地裁の取扱について言及しません。

(4)オーバーローンの不動産

 破産者名義の不動産が存在する場合でも、必ずしも管財事件として処理されるというわけではありません。破産者が経済的破綻に至る過程で、すでに担保権が何重にも設定されて、当該不動産が実質的には無価値になっていることも多いからです。

 被担保債権の合計額が当該不動産の換価価値を大幅に超える状態(=オーバーローン)であることが明白であると言えれば、同時廃止できることもあります。その判断基準の詳細については、本稿では述べません。

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