敷地権付区分建物の不動産登記法第74条2項による所有権保存登記について
投稿日:2016年05月10日【 不動産登記 】
« 前の記事へ | 知って得する豆知識トップ | 次の記事へ »
今回のテーマは、あまり一般的な関心分野ではないことを予めお断りしておきます。他業種の方が読んでも、多分「?」と感じることでしょう。しかし、あえてこのテーマを掲載したのは、このテーマに関する手続法(登記法もその一つです。)と実体法との整合性について考えてみようと思ったからです。
問題Ⅰ 不動産登記法(以下、単に「法」という。)第74条2項による敷地権付建物の保存登記申請の際に、なぜ敷地権登記名義人の承諾書を添付しなければならないのか?
問題Ⅱ 敷地権登記名義人の承諾日付が、この場合の保存登記原因に影響しないのはなぜか?
以下、ケース①とケース②の典型的事例を使って考えてみましょう。
1. ケース①
投資用マンションを建設・販売するA社は、平成25年3月20日JR住吉駅前の1,000㎡の敷地を取得し、平成25年5月マンションの建築工事を開始しました。平成26年8月1日に建築工事が完了し、同月15日に50戸全ての区分建物の表題登記が申請されました。
平成26年9月20日に、BがA社から区分建物のうちの1棟を購入するための売買契約が締結されました。登記原因証明情報たる売買契約書の日付は平成26年9月20日になっています。ところが、A社が発行した敷地権登記名義人の承諾書の日付は、平成26年9月21日となっています。
(1) 登記記録からわかること
50戸全ての区分建物の登記記録(所有権保存登記はこれから申請するという想定ですので、登記記録は表題部のみの記載しかありません。)には、所有者としてA社が記録されます。さらに、平成26年8月1日に建物の底地である土地について敷地権化されたことが記録されます。
一方、敷地権の目的たる土地の登記記録には、「平成25年3月20日売買」によりA社が所有権を取得したことが既に記録されていました。これに加え、区分建物の表題部に敷地権の記録がなされるのと同時に、建物敷地たる土地の登記記録甲区に、職権により主登記で「敷地権である旨の登記」(法46条)がなされます。
(2) 法74条2項の所有権保存登記
法74条2項は、区分建物の原始取得者(=表題部所有者)からの承継取得者による所有権保存登記申請を認めた規定です。
この所有権保存登記のためには、区分建物及び敷地権(法73条1項本文)についての移転事実を公示するため、その申請に際しては、区分建物についての所有権移転事実を明らかにするための登記原因証明情報に加え、敷地権の登記名義人の承諾書を添付しなければなりません(法74条2項後段)。敷地権の登記名義人の承諾書まで要求されている趣旨は、敷地権の移転事実に関する真実性を担保するためだと考えられています。つまり、区分建物とその敷地権の双方について、移転事実を担保するための証明情報の提出が要求されているということです。
登記原因証明情報や承諾書を添付するという点は、法74条2項による保存登記が移転登記と類似することを示すものとして興味深い点です。他方、法74条2項の保存登記も、単独申請であることや登記識別情報提供が不要である(提供がそもそも出来ない)ことは、通常の保存登記と同じです。
(3) 承諾に意味はあるのか?
しかし、よく考えてみると敷地権登記名義人の承諾については、訳が分からないことばかりです。この承諾は本当に意味のあるものなのでしょうか?
ケース①では、もともと区分建物の原始取得者も土地の所有権登記名義人もA社です。土地が敷地権化されているということは分離処分が禁じられており、A社は区分建物を処分(売買)する時に、敷地権も一緒に処分したと考えられます。よって、敷地権登記名義人の承諾書を登記原因証明情報(売買契約書など)とは別に要求することは、余分なのではないかとも思われます。
換言すれば、敷地権は区分建物所有権の従たる権利(民法第87条2項)であるから、区分建物移転の意思表示は、当然に敷地権移転の意思表示を含んでいると言えます。従って、A社が、区分建物を売却処分しながら敷地権の移転を承諾しないという矛盾した意思表示を行うことが考えられないと思われるのです。
確かに、区分建物の原始取得者と敷地権の登記名義人とが完全に一致していれば、法74条2項の保存登記の際に、登記原因証明情報とは別に敷地権登記名義人の承諾書を必要とする意味はないのでしょう。果たして、常にそのようなことが言えるのでしょうか?
2. ケース②
A社とB社とは、共同で居住用マンションを建築する計画のもとに、平成25年3月20日阪神御影駅前に5,000㎡の土地を取得しました(共有持分各2分の1)。共同開発としたのは、一社だけでは資金力に不足していたからです。平成25年5月にマンションの建築工事が開始されました。平成26年8月1日に建築工事が完了し、同月15日に全50戸の区分建物のうち25戸をA社名義で、残りの25戸をB社名義とする表題登記が申請されました。
平成26年9月20日に、CがA社から区分建物のうちの1棟を購入するための売買契約が締結されました。
(1) 敷地権はどのような権利(所有)関係のもとで発生するのか?
ケース②において、まずは、敷地権が発生しているか否か、即ち区分建物とその敷地利用権の分離処分が禁止される状態が生じているか否か、を検討してみましょう。そもそも、敷地権とは、土地と建物それぞれがどのような権利関係となっていれば発生するのでしょうか?
敷地権が生ずる場合について定めているのは「建物の区分所有等に関する法律」(以下、「区分所有法」という。)第22条1項及び同条3項です。
区分所有法第22条1項:
敷地利用権が数人で所有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することが出来ない。(以下略)
同条3項:
前二項の規定は、建物の専有部分の全部を所有するものの敷地利用権が単独で有する所有権その他の権利である場合に準用する。
ちょっと分かりづらい規定ですが、区分所有法第22条1項は、まさにケース②のような場合に区分建物と敷地利用権との分離処分が禁じられる、すなわち敷地権が発生することを定めています。これを準用する形で、同条3項は、ケース①の場合にも、敷地権が発生することを定めているのです。この規定の形式を見ると、ケース②の方が原則的な敷地権発生場面ということになります。
よって、ケース②の場合も敷地権は発生していることになります。
(2) 敷地権登記名義人の承諾
ケース②において、Cが法74条2項の所有権保存登記申請の際に、AからCへの所有権移転の登記原因証明情報に加えて、敷地権登記名義人ABの承諾書を添付することは、建物と土地の権利関係が完全には一致していない以上、敷地権登記名義人の権利保護と登記の真実性を担保するために意味のあることです。
3. 承諾の時期が登記原因に影響しない理由
ケース①において、登記原因は「平成26年9月20日売買」です。承諾の得られた9月21日が原因日付になるわけではありません。
この理由は、比較的単純です。それは、敷地権登記名義人の承諾は、区分建物の所有権移転のための実体法上の要件ではないからです。ここでの承諾は、単なる登記法という手続法上要求されているにすぎません。
このことは、所有権の更正登記を申請する際に添付する利害関係人の承諾書について考えれば分かり易いと思います。承諾の得られた日付は、もちろん更正の原因日付(そんなものは元々存在しません。)に影響しません。
<不動産登記の関連記事>
« 前の記事へ | 知って得する豆知識トップ | 次の記事へ »