税という名の債務
投稿日:2018年08月21日【 債務整理(借金問題) 】
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多重債務について相談を受けていると、多くの人が税について誤解していることに気づかされます。そこで、今回は、債権・債務という観点から税について考えてみることにしましょう。
1 税の特徴:私債権・債務との比較
(1) 趣旨
税は、国や地方公共団体等、公権力の活動を支える原資です。公権力の借金(国債等)もいずれ税による償還を予定しているので、結局、税が原資であることに変わりません。
あまりに当たり前のことですが、この実感を欠いている人はかなり多いようです。「役所(=公権力)のやることはタダ(=無料)だ。」という勘違いは、珍しくはありません。しかし、公権力が行う個々の活動と税との対価関係を観念しづらいとは言え、公権力の活動は実は全て「有料」なのです。
したがって、税の賦課・徴収とは、単純化すれば、公権力の活動費の請求なのです。このことから、税は、個別の合意を要せず公権力によって、大量・反復的に賦課されるものであるという特徴が生じます。
これは、私債権・債務が合意(契約等)に基づいて発生するのと異なっています。実は、税に関する「合意」は、民主主義の過程に昇華されてしまって、普段意識されないようになっているのです。税が必ず法律に基づいたものでなければならないとされるのは、このためです(日本国憲法第84条)。
(2) 自力執行力とは
ほとんどの債権には、「執行力」が備わっています。私債権の執行力とは、確定判決を債務名義として強制的に債権回収することのできる性質のことです。これは、裏を返せば、債権者であっても、自ら無理やり債務者の財産を奪うこと(=自力救済)は許されず、債務者に対する勝訴判決を取る等の一定の手続を経なければならないということを意味します。
これに対して、税には、「自力執行力」が備わっています。自力執行力とは、滞納された税を、公権力が自ら強制的に徴収することのできる性質のことです。滞納税を強制的に徴収する手続のことを「滞納処分」と呼びます。公権力は、裁判等の手続を経ることなく、直接に滞納者財産を差押・換価して、徴税目的を達することができるのです。
国税の滞納処分の手続については国税徴収法が規定し、これが他の租税公課にも準用されます(地方税法第48条第1項、国民年金法第96条第4項等)。
(3) 徴収権の消滅時効
私債権は、原則として権利を行使できるときから10年間行使されない状態が続けば、時効により消滅します(民法第167条第1項)。ただし、期間の経過によっていきなり債権が消滅するのではなくて、時効の利益を受ける者によって「援用」される必要があります(民法第145条)。また、債権の時効消滅を防ぐ「中断」のためには、債権者は、債務者に対して訴訟を提起する等の手段を取らなければなりません(民法第147条第1号)。
* 平成29年民法改正(平成32年施行)により、債権の時効に関する規律は大きく変更されました。上の説明は、現行法に基づいています。
税の徴収権も、原則として納期限から起算して5年間行使されない状態が続けば、時効により消滅します(国税通則法第72条第1項、地方税法第18条第1項等)。しかし、徴収権は、期間が経過すればそれだけで消滅するのであって、時効の利益を受ける者による援用を必要としません(国税通則法第72条第2項、地方税法第18条第2項等)。反面、徴収権の消滅時効は、「督促」等によって容易に中断されてしまいます(国税通則法第73条第1項第4号、地方税法第18条の2第1項第2号等)。
(4) 破産手続における優先
破産手続において、税は、優先的破産債権とされ、さらに、その中でも、最も優先順位が高いとされます(破産法第98条、国税徴収法第8条等)。よって、配当手続によらずにこれを弁済したとしても、「否認」対象行為(破産法第163条第3項)にも、「偏頗弁済」(破産法第252条第1項第3号)にも当たりません。
また、同じ趣旨で、破産手続開始決定前に行われた税の滞納処分の効果は、開始決定にもかかわらず続行するとされています(破産法第43条第2項)。公権力が、破産手続中にもかかわらず、差押えた破産者の財産からいち早く満足を得ることができるのです。このことは、私債権による差押等が開始決定により失効してしまうここと対照的です(破産法第42条第2項)。
さらに、個人の破産者にとっては免責を受けることが自己破産のほとんど唯一の目的とも言えますが、納税義務は免責されることもありません(破産法第253条第1項第1号)。
2 公課との共通性
公課とは、「滞納処分の例により徴収することができる債権のうち国税・・及び地方税以外のものをいう」(国税徴収法第2条第5号)とされています。税以外の公的な金銭負担のことです。代表的な公課は、健康保険料、社会保険料等です。
公課も、税と同様の性質を持つことから、上記1で述べた税の特徴の多くが当てはまります。
3 まとめ
税を誤解している人は、納税を後回しにしがちです。あたかも税を最劣後債権であるかのように扱ってしまうというわけです。しかし、上で見たとおり、税は、最優先の債権であって、裁判等の手続を要せずに差押・換価できる性質を持った非常に強い債権です。さらに、破産免責を受けたとしても、納税義務を免れることは出来ません。
よって、税を滞納してしまったら、税務当局(税務署、市役所等)との間で、なるべく早めに分納や延納の交渉をすべきでしょう。この点だけは、私債権よりもずっと容易なはずなのですから。
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